6.「仙居」ーその生涯と芸術—を詳細に検討した本書は,わが国の現行の美術教育制度やその内容を検討,考察するうえで非常に大きな示唆を与えるものであり,さらにはまた,わが国においても今後その確立と発展が期待されている美術教育学および美術教育史に対して,その学問的基盤を提示するものであると考えられる。5.「美術史のスペクトルム」Art History in Spectrum 出版目的大阪大学文学部美学科美術史第二講座は今より十三年前に設立され,先史・民族の諸芸術,および古代から現代にわたる西洋美術の諸領域を講じ,研究して今日に至った。設立以来の卒業生は既に百数十名を数え,そのうち多くのものは各地の美術館,諸大学において活躍し,その業績は国の内外において次第に高い評価を受けるに至っている。本講座の設立者である木村重信教授は,本講座の教授として幾多の後進の教育に当たると共に,国の内外において活発な研究活動を行なってきたが,きたる1989年3月をもって大阪大学を退官の予定である。今回それを機に,本学関係諸教官,および本講座出身者で全国各地において研究活動に従事するものが集い,先史・民族芸術と並んで西洋美術史の流れをそれぞれの観点から論じ,その発展を通覧する一書を編むことを計画した。本書は古代から現代に至る西洋と民族の美術の歴史を六つの章に分け,それぞれの時代に固有かつ最も本質的な問題を論じる。このような方法を取ることによって,般の通史が陥りがちな論述の平板化を避け,本質的課題の発展史としての美術史を編もうとするものである。この書が我が国の学会の一角に新たな創意と共に築かれた若々しい学風を世に知らしめると共に,これから美術の歴史を学ぼうとするものに最新の情報とアプローチを提供するものと期待している。出版目的日本の近世における宗教美術,特に禅画の分野において,白隠慧鶴と共に独自の足大阪大学文学部助教授福岡市美術館学芸員中山喜一郎辻成史-262
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