鹿島美術研究 年報第5号
33/290

4.フィンセント・ファン・ゴッホの作品の資料的研究(1970),フルスケルの『ゴッホによるゴッホ』(1973)できた。それらは,掛幅形式の絵画などのほかに,杉戸絵,江戸城関係の絵図,島津家伝統の武芸として有名な犬追物に関する絵画など,主題,形式が多岐にわたり,江戸時代の薩摩藩の絵画の流れを知ることのできる資料でもあった。薩摩藩御用絵師としては,木村探元(1679■1767)のみが知られ,ことに,探元以前の御用絵師については,名前だけで,現存作品はほとんど見ることができないのが現状であった。しかし,今回発見された,従来の風俗画とは異なる,作法に則し記録性の強い犬追物の絵画には,この空白時期のものと推定される狩野派系の優れた作品があり,その当時の御用絵師の作風を知ることができるようにもなったと思われる。同主題の絵画は,幕末にも描かれ,その伝統を知ることができるのと同時に,犬追物関係の絵画の研究においても重要な資料であることが理解された。本発表にといては,犬追物に限らず,その他の絵画資料と含め,それらを基本に,薩摩藩の御用絵師の特徴について,地域的特質を考え合せて述べてみたい。たとえば,薩摩藩の御用絵師は世襲制でないが,これは画風の形式化の問題に関係してくるとは考えられないだろうか。以上,これら島津家の絵画資料が,近年注目されている各地の御用絵師研究の一助となればと思っている。国立西洋美術館主任研究官有川治男ゴッホの作品が彼の書簡の中でどのように言及されているかという問題は,ゴッホの研究にきわめて重要な一分野であり,ド・ラ・ファーユの『ゴッホ総カタログ』などは,その分野での研究成果を示している。しかしながら,それらの研究は必ずしも完全なものではなく,例えば有名な〈ゴッホの寝室〉についてさえ,その解釈に関してきわめて重要な言及箇所が,これまで指摘されて-19-

元のページ  ../index.html#33

このブックを見る