鹿島美術研究 年報第5号
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5.越前における本地仏像の基礎研究6.院政期物語絵巻の作品研究えながら,同地方の遺品の精査,史資料の整備を行い,新たな作例の発掘に努める。そして各遺品の様式史的位置づけの精度を増すとともに,会津地方仏像彫刻史研究の基礎を確立したい。研究者:福井県立博物館学芸員長坂一郎研究目的:本調査研究の目的の第ーは,仏像の遺品の確認である。従来越前においては,仏教彫刻の遺品は少いとされてきたが,神社を調査することで,その数と質は増すと思われる。次いで,本地仏として祀られる仏像を数多く調査することで,本地仏像の類型化がある程度,可能になるのではなかろうか。すなわち,仏像と本地仏像の造型的な違い,あるいは本地仏像の表現上の特徴,さらには本地仏像と神像との関係など興味深い問題の手がかりを得ることができるのではなかろうか。現在,素朴な造型のために,地方仏としてかたづけられている仏像の中に,卑見によれば,本地仏像ゆえに素朴な造型,清楚な感覚を漂す仏像もあるように思われる。本調査研究によって,それの可能性を指摘できれば数多い地方仏に新たな視点を与えることができるのではなかろうか。研究者:東京芸術大学非常勤講師稲本万里子研究目的:院政期のいわゆる女絵の物語絵巻には「源氏物語絵巻」「葉月物語絵巻」「寝覚物語絵巻」という三つの作品が現存する。これらの研究は「源氏物語絵巻」が中心を占め,他の二つの絵巻については研究論文が極めて少ない。「源氏物語絵巻」以降,物語絵巻の画風がどのように展開し,院政期の美意識がどのように変貌してゆくのか理解するためには,物語絵巻の個々の作品研究とこれらの総合的な研究が必要であろう。申請者はかつて「葉月物語絵巻」の調査を行ない,X線写真を含む写真資料の検討の結果,人物の顔貌等に施された補筆補彩を発見,絵の制作年代が鎌倉時代に下げられていたが,様式的には「源氏物語絵巻」から「寝覚物語絵巻」に至る流れの上に位-27-

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