鹿島美術研究 年報第5号
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ムヽY口17.インド仏伝図像の研究置づけられる作品であると考え,その結果を発表した。同様に実証的方法により「寝覚物語絵巻」や白描の女絵の資料として貴重な遺品である「目無経」下絵の検討を行ないたい。そのために,物語の表現法や画面の構成法チーフが画面の中にどのように配置されているか展開を探ることにする。ところで,物語絵巻には現在のところ文献史料等から制作年代を確定できる基準作例がない。そので平行して女絵系の見返絵をもつ装飾経の研究を進めることも不可欠である。以上,制作年代を明確しうる装飾経の見返絵を基準にしつつ,物語絵巻の作品研究を積み重ねることによってこの時期の物語絵の様式展開を明らかにしたい。研究者:名古屋大学文学部助教授研究目的:仏教美術は広く東洋世界に伝播しているが,研究の歴史が比較的新しいこともあって,それぞれの地域ごとの実証的,基礎的研究が主体となっている。仏教美術の伝播や交流を問題にする場合にも,それぞれの地における美術史上の変化を説明するために他からの影響を論ずることが多く,地域と時代,横軸と縦軸を視野に入れての仏教美術の伝承と変貌を研究することは,あまり行われていない。インドの仏伝図像は仏陀の象徴的表現をとっていた古代初期に最初の段階があるが,ガンダーラ美術において飛躍的な展開を遂げる。ガンダーラの仏伝図像にはローマの皇帝崇拝美術や石棺浮彫の図像,モチーフが少なからず取り入れられ,釈尊の英雄的,救済的な性格をもつ仏記図像が成立する。これに対し,インド内部ではガンダーラの図像を取捨選択して継承しながらも,インドの詩文にうたわれる王宮生活や女神信仰が影を落とし,釈尊の奇蹟図像もヒンドゥー教の神話世界の中に組み込まれる傾向が強い。仏伝図像は強い伝承性をもっているが,それにもかかわらず,それぞれの地域・時代において場面の取捨選択はもとより,同ー場面の伝承伝播の際にも他の文化の脈絡の中で絶えざる改変を受ける。この図像の差異を読み取ることによって,逆にその地域と時代の脈絡を明るみに出すことができる。本研究は,未だなされていないインド仏伝図像の資料集成を図るとともに,仏伝図昭という点に着目して,画風の-28-すなわち,どのようなモ

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