鹿島美術研究 年報第5号
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研究目的:インド美術史において,最近アメリカの研究者を中心に狭い範囲の個別研究が盛んである。しかし,その多くは研究のための研究といった傾きがあり,研究成果の発表の活況に反して,インド美術研究の遅れが依然として,顕著である。その原因の一つが,研究者に研究の基礎としての歴史意識が欠如している点にある。西洋の歴史観に倣って,インドにおいても古代,中世,近代といった区分がなされることが多い。事実少なくとも,古代と中世の区分はインド美術史には有効であると考えられる。しかしながら古代・中世がどう分けられるかとなると,研究者によって,インド史の考え方を採用するか,大した根拠もなく,恣意的に区分するか,あるいはほとんど意識していないかのいずれかである。まして,インド美術史における古代と中世の概念となると,全く確立されていない。つまり,インド美術の大きな流れを見ずに,研究を行う場合が大半で,いわばそれぞれの研究が,インド美術史全体の座標にどう位置付けられるのか,多くの場合意識されていない。本研究の目的はインド美術研究の遅れの原因ともなっている。古代と中世の時代区分を明らかにし,それぞれの持つ内容を美術史の側から解明することにある。申請者は,目下のところ,古代・中世の境を西暦7世紀中半に考えているが,研究対象を,それに基づいての古代末・中世初期(5世紀頃から9世紀頃まで)に限定したのは,その期間に,インド古代と中世美術の特質が凝縮した形で変化するという予想と,転換期の様相を探求することが,美術史における時代区分の問題解明に必須であるという確信に根差すからに他ならない。10.日本近代ガラス工芸史一明治・大正・昭和のガラス産業及び工芸の展開について一研究者:北海道立近代美術館主任学芸員水田順子研究目的:弥生時代の勾玉,正倉院のガラス製魚形,江戸時代の素朴でおおらかな吹きガラスの酒器,幕末の精緻な切子硝子,明治・大正のランプや氷コッフ゜,昭和の岩田藤七の色ガラス,各務鎖三のクリスタルグラス,そしていわゆるスタジオ・グラス運動に基づく新しいガラス造形…。日本のガラスの歴史は古く,さまざまな局画を持つ。しかし,それぞれの点はなかなか相互に結びつかず,ひとつの線が描けない。つまり,陶-30 -

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