鹿島美術研究 年報第5号
47/290

11. 19世紀における日・英美術交流の研究磁などと比較すると日本ではガラスの伝統というものが形成されなかったように思われるのである。長い伝統を誇るヨーロッパあるいは後発ではあるが何にもとらわれない自由を持つアメリカと肩を並べようとしている今日の活況ぶりを考え,今後のますますの発展を予測すると,単にガラス特有の性質が日本人の美意識に溶け込みずらかったとかたずけて終わるのではなく,これまでの日本のガラスが歩んだ特異な道を的確に把握しておくことがきわめて重要であると思われる。時代が遡るほどガラスの製造の実態について不明の点が多くなることはいうまでもない。明治・大正さらに昭和のことですら,すでに資料が散逸して詳らかになっていないことが多いのである。本研究では,現在探しうる資料をできる限り発掘し,それを整理することによって,日本のガラス史の空白を幾許でも埋めながら,日本におけるガラス工芸のあり方を考察してゆきたいと考えている。研究者:チェルシー美術学校(ロンドン)美術史科主任渡辺俊夫研究目的:ジャポニズムあるいは西洋美術の明治・大正美術への影響を論じる場合,いままではフランスを重要視するあまり,他の国との関係を無視する傾向が強かった。確かにフランスは重要であるが,イギリスの果した役割は過去,二,三の例外を除いてはかえりみられることが少なかった。しかし,政治・経済・外交の分野をみれば日英関係がこの期間においては密接であったことは明らかである。実際の対日貿易,人的交流,日本関係出版物の量においては,イギリスはフランスを圧倒していた。このような状態の中で,そもそも美術はどういう役割を果していたのであろうかというのがこのテーマの構想の発端である。この調査の目的は十九世紀後半から今世紀初めにかけて日英美術交流の接点を探り,その実態を明らかにしようとするものである。更にこれによってジャポニズム研究のバランスをただす意義もある。12.マエストロ・デ・カベスタニの作品に関する様式史的研究研究者:筑波大学芸術学系助手菊地章太31 -

元のページ  ../index.html#47

このブックを見る