鹿島美術研究 年報第5号
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研究目的:本研究はマエストロ・デ・カベスタニの全作品について,基礎的データーの集積を行ない,作品の記述を中心とした資料集成的な作品目録(コルプス)の作成を通じ,その様式展開の相を明らかにしようとするものである。残された50点あまりの作品をもとに,マエストロ・デ・カベスタニという彫刻家の芸術的成長を理解するのが本研究の目的である。マエストロの作品に関する総括的な研究はこれまでに数多くなされてきたが,作品によって取り扱いに著しい軽重があり,また1979年に新たな帰属作品の存在が確認されて以来,マエストロの全作品を網羅した研究は発表されていない。現在までに知られているマエストロの全作品について,同一の方式でデーターを集積し,コルプスの作成を行なう試みは本研究がはじめてである。この資料集成的な作品目録は,今後のマエストロ研究にとって共通の基礎を提供することになるであろう。マエストロ・デ・カベスタニは作品を通じてのみその存在を知ることができる。マエストロについての伝記的事実はなにひとつ知られておらず,個々の作品に関する史的史料もきわめて限定されている。したがってその研究はあくまで作品それ自体の観察に立脚せざるを得ない。従来の研究においては,マエストロの周囲にある他の作品との比較によって個々の作品の様式上の位置を決定しようとする試みはなされてきたが,マエストロの作品そのものの内的展開を考究したものは少なく,また不徹底であった。これが従来のマエストロ研究の最大の問題点である。本研究は,マエストロ・デ・カベスタニという,きわめて個性的な,しかも統一ある作風をつくりだした芸術家の創作活動を,ひとつの全体としてとらえ,作品それ自体の中に様式の内的展開のあとを読みとることをめざしている。これによって,従来きわめてまれにしか知られていない西洋中世における芸術家一個人の創作活動を様式史的に解明することが可能になるものと思われる。13.大正期の美術にあらわれた江戸趣味について研究者:麻布美術館学芸員岡本祐美研究目的:明治と昭和という大きな時代の谷間にあってわずかな時期ではあったが複雑な様相を呈した大正期の美術については個人作家の大規模な回顧展や東京・京都の国立近代-32 -

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