鹿島美術研究 年報第5号
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実に描写しており,当時の状況を知る上で恰好の資料となっており,記録や文字では知り得ない部分に光りをあてることの出来るものといえる。19.アッシジ下院聖ニコラス礼拝堂壁画の研究研究者:東北大学文学部助手野村幸弘研究目的:アッシジ下院聖ニコラス礼拝堂壁画の調査は,所謂「アッシジ問題」という美術史上の大問題を考察する上で欠くことの出来ない要素のひとつである。それは上院の「聖フランチェスコ伝」の最後の数場面と緊密な関係を持つばかりでなく,パドヴァのジオットの壁画とも深い関わりを示しているからである。既にM.ミースによって聖ニコラス礼拝堂壁画の制作時期は14世紀の最初期,パドヴァの壁画以前に置かれているが,その根拠を今一度再検討してみる必要がある。何故ならこの礼拝堂壁画を描いた画家は,ジオットの追随者であり,彼はジオットのパドヴァ段階の様式およびモティーフを知っていたと思われるからである。また堂内壁画の一部にジオットの自筆を認めたボンサンティの説の是非も検証しなければならない。つまりジオット自身がこの礼拝堂装飾に直接携ったかどうかという問題は,ジオットの「アッシジからパドヴァヘ」移行する芸術過程の理解に大きく作用して来るのである。この礼拝堂装飾の美術史的な位置付け,つまりその帰属と年代設定をより明確にすることによって,上院の「聖フランチェスコ伝」の前半部と後半部の関係,そしてジオットのパドヴァの壁画との関係が浮彫りにされると考えられる。このような見方は,それぞれの壁画を別個に考察して行くものとは異なり,ジオットの様式やモティーフを共有する壁画をひと続きの有機的な連関のもとに再構成し,13世紀末から14世紀初頭にかけてのジオットとジオットを取り巻く画家たちの芸術活動の特徴を解明するのに貢献すると思まれる。20.新発見資料「エミール。ペルナールの画帖」研究研究者:沖縄県立芸術大学講師浅野春男研究目的:広義には,19世紀後半から20世紀初頭にかけて展開された西洋の芸術論の展開を,特にセザンヌやベルナールを中心に考察することを目的とする。狭義には,セザンヌに非常に近い位置にあり,セザンヌと交友を持ち,書簡を交わし,セザンヌの死後に36 -

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