鹿島美術研究 年報第5号
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ン界においては,戦後多くの逸材が,この阪神の地から進出したことは明らかなのである。22.湯浅一郎研究研究者:群馬県立近代美術館学芸員染谷研究目的:湯浅一郎の父治郎は,政治家として徳富蘇峰,新島襄に協力,社会的に幅広く活躍した人物であったが,その父の庇護のもと,湯浅一郎は一枚の絵も売る必要のない恵まれた画家生活を送った。そのためその遺作はもとより書簡等の資料も,大半がそのまま残されて,徹底した調査によって貴重な資料が出てくる可能性が高い。近年,高橋由ーなど初期洋画家達の画業と足跡が明らかにされてきているが,明治中期の白馬会の画家達となると,黒田清輝や久米桂一郎を除いてはまだまだ十分な調査研究がなされていない。湯浅一郎は,歴史の表舞台で華々しく活躍することこそなかったが,その画歴は我が国洋画史の本流に沿うもので,生巧館画塾時代,白馬会時代,滞欧期,二科会時代といったそれぞれの時期で,研究すべきテーマをもっている画家と言える。生巧館画塾での洋画学習の様子,東京美術学校での勉強と白馬会出品作品の画風,特に外光派と呼ばれた様式の比較検討。スペインでベラスケスの模写,二科会創立の経緯とそこでの湯浅一郎の位置,等々。これらの問題点が,湯浅一郎の画業を調査研究することで,湯浅一郎個人の画業を越えた,明治大正の近代洋画史の研究に貢献をすることができると期待される。23.近世初期の料紙装飾について研究者:神戸大学文学部助手中部義隆研究目的:近世初期の絵画作品には,現在高い評価が与えられているが,研究は必ずしも十分と言えず,解明すべき多くの問題点が残されている。その原因の一端は,現在作品が乏しいことにあり,今後新たに作品が発見されることも,そう多くは望めない。したがって,当時の画壇の状況をより正確に把握するには,新たな視点を必要とする。その意味で,料紙装飾を絵画史の中で捉え直す試みは,非常に有効な手段といえる。殊滋ほかー名(共同研究)38 -

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