鹿島美術研究 年報第5号
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27.中国明・清時代の挿図本に関する調査研究の目標とする。中国の仏教彫刻といっても,中国大陸は広大であり,同一の時代であってもおのずから個々の地域性があらわれる。まず各地域ごとの様式の特性を知り,さらに地域間相互の交渉を具体的に跡付け,そののちに中国全体としての「時代の様式」を認識しなければならない。戦後,日本の中国仏教彫刻史研究は,特に金銅仏や碑像などの単独造像に中心がおかれていたが,このような単独造像の場合,ほとんどその製作地を特定できないため,造像様式の地域性までを考察するのには不十分である。その点,大地に直接造形された石窟寺院彫刻からは,明確にその土地の地域性を知ることができ,現在はそのための基礎資料作成を第一の目標としている段階である。研究者:大阪市立美術館学芸員中川憲研究目的:1,我国においては,挿図本の調査研究は,小説,戯曲の研究者あるいは書誌学者などによる断片的なもので,中国版画史を集大成する立場に立って行なわれてこなかった。また,挿図本の所在目録も作成されていない。版画史,挿図本に関する本格的研究は,目録の作成を出発点としなければならない。基礎カードの様式を定めて,各図書館,文庫ごとに調査し整理すれば有用な資料となる。1.挿図の刻工については画史類あるいは史書などには記述がなく,実際に書籍にあたって,資料を収集しなければ解明されない。明清代の刻工名は,現在,かなりの人数が知られているが,今後,調査が進めばそれらの人々の関係や背景が明確となる。1.三国志,西遊記あるいは西廂記などの小説や戯曲は,当時,民間で人気が高く,各地で各種の異本が出版された。目録の作成,挿図形式の相違,作図法の比較等格好の資料となる。1.画本類の調査は,中国画の研究に有用だが,それを粉本として,江戸時代に各種の画本,文人画が作成された。それは日本の文人画の源をさぐるにも有用である。41 -

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