28.ロレンツォ・ギベルティ著「イ・コムメンタリィ」と著者及び14世紀美術家達の作品との関係研究者:玉川学園女子短期大学助教授西山重徳研究目的:研究の目的を明らかにするため,問題点の一部を,ここに少々具体的に示す。クラウトハイマーはその著者「ロレンツォ・ギベルティ」の中のある箇所で,次のように述べているー「もしギベルティが本当にこの扉(“天国の扉”のこと)の最終的立案者であったとするならば,『イ・コムメンタリィ』の中でギベルティがこの扉について語る際に,ある主題についてはこれを述べず,他の主題についてはこれを誤称し,さらには作品の中に全く見ることができないものまで枚挙しているがごとく,物語の内容に無頓着である理由を説明することは困難である」(p.171)---。しかし,ここでクラウトハイマーが問題にしている「イ・コムメンタリィ」の中の記述は,同書のアンブロジオ・ロレンツェッティの失われた壁画を叙述する文章と同種のものである。それらはどちらも当該作品を賞揚する意図を明らかに示しながら,しかし,作品の形式的特徴に言及することなく,ひたすら作品中にいかなる物語的情景が認められるかを順次述べることに終始する。この種のekphrasisによって,ギベルティは何を読者に伝えようとしているのか。このような疑問を一例とする種々の問題点を作品と文献の双方の側から組織的に検討し,究明することは,「イ・コムメンタリィ」の中に言及されている作品や美術家達,および,この書物そのものの理解増大に貢献するものと考える。29.英一蝶研究ーその信仰と作風一研究者:関西学院大学非常勤講師永瀬恵研究目的:英一蝶流鏑以前の朝湖・信香時代の作例は少ない。代表的な画蹟としては,「朝嗽曳馬図」(静嘉堂文庫蔵),「四季日侍図巻」(出光美術館蔵),「布晒舞図」(遠山記念館蔵)「風俗画絵鑑」(茨城県歴史館蔵)「吉原風俗図巻」(サントリー美術館蔵)などがあげられる。英一蝶落款の作例の圧倒的な多さに比べて,朝湖・信香を名のった若描きの時代は不明な点が多い。しかし,本年九月八日付読売新聞紙上等で,英一蝶の20歳代から30歳代前半に描か-42 -
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