鹿島美術研究 年報第5号
59/290

30.「額のかたち」の研究19世紀後半から伝統的な絵画形式が少しずつ変化を見せはじめ,今世紀初頭には,れたとみられる金地の花鳥屏風絵が発表された。この発見により,改めて英一蝶の江戸狩野派の最高の技量をもつ逸材ぶりがうかがえるとともに,これを契機として,流鏑以前の一蝶の作画活動の一端が明らかにされつつある状況である。安信をはるかにしのぐ技量をもちながら,なぜ一蝶は破門されたのか,さらにはなぜ島流しになったのか。信香・朝湖時代の作画活動の解明とともに,作品と信仰の面からそうした問題にとりくんでみたいと考えている。研究者:東京大学大学院博士課程諸川春樹研究目的:絵画を保護し,支持する役目を持つ額は,今日に至るまで,保存修復と関連して取り上げられる以外には,ほとんど注目されなかった。しかし,ゴシック期,ルネサンス期の祭壇画フレームに代表されるように,額のデザイン及び製作は,当時の建築,彫刻,工芸のあらゆる方面の知識,技術を動員せねばならない,きわめて内容豊かなものであった。従って額のデザイン,構造を研究することは,単に今日美術館の中で破損したまま放置されている額の修復に有益な資料を提供するのみならず,絵画美と,その受容者である鑑賞者,すなわち社会との関係を明確にするための,重要な鍵を提供することでもある。コラージュやオブジェ等の新しい技法,新しい絵画形式が登場するが,これらの背景には社会と芸術の関係の推移が前提として存在しているのであり,それを具体的に実証するためにも「額のかたち」の研究は有意義であると,確信する。31.狩野山雪とその後継者の研究研究者:帥大和文華館学芸課長研究目的:従来の近世絵画史では,狩野探幽らの江戸狩野派をとりあげ主流として論じる。たしかに江戸狩野派がアカデミスムとして果した功績は大きいが,桃山時代の狩野派とちがってその芸術的創造性は低下しているといえる。一方,京都に残留した山楽山雪及びその後継者は流派としての力が弱く,絵画史としての扱いも傍流としてである。43 -林進ほか3名(共同研究)

元のページ  ../index.html#59

このブックを見る