鹿島美術研究 年報第5号
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2)色彩学的立場においては,日本の伝統色と深くかかわっている岩絵具の基礎的標京文化の伝統を守る公家,寺社,町衆の求めに応じて制作した京狩野は当時の江戸画壇から見れば古風なものとして映ったと想像されるが,古典的主題をとりあげ水墨画技法の基本を忠実に守り学問教養に裏づけられた知的構成は,今日的な眼で見れば新鮮に映る。山雪が文人的気質をもち,文人画を描いていることは文人画家の先駆として見逃せない。山雪の晩年の奇矯な画風が江戸後期の京狩野につらなる奇想の画家曽我爾白に強い影響を与えていることも注目されてよい。近年,西洋美術史におけるマニエリスムが見直され,明末清初の個性的画家や江戸時代の奇想的画家が注目されるようになった。とともに山雪の奇矯な個性と知的構成とが結びついた独自の造形性は高い評価を受けつつあるが,この調査研究が今後進展すれば,近世絵画史は書き改めなければならないであろう。32.マンセル・システムによる日本画用絵具の分類ー岩絵具を主体として一研究者:女子美術大学芸術学部講師橋本研究目的:現在まで,日本画岩絵具のほぼ全体をマンセル等により体系づけたものがなく,それを体系づけることにまず意義があると思われます。また,価値については1)作家にとって好みの色を見本帖により岩絵具全体の中から捜すことができ,またマンセル記号を参考に日本画の新しい展開を考える資料になると思われます。本資料として,また伝統色の持っている色名と色の対応の幅やマンセル化することにより色彩分布等が明確なものとなります。3)将来現代日本画の修復・再現等の問題が生じた時の基礎的資料になると思われます。4)美術史的立場としては,戦後色数が大変多くなり,それらにより展開されてきた戦後美術の様々な表現等を考える上での資料になると思われます。以上がこの研究による意義・価値と思われます。-44-信

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