行ってきた。それも単に画集,展覧会カタログからの採録だけでなく広く民国期刊行の雑誌文献を雑誌の主題に関係なく閲覧しカードをとり,また作品から活躍時期,号を採録するというように広範囲な資料から画家カードを作成してきた。これまでの過程で公刊した“近百年中国画人資料”(美術研究293■304)は欧米及び中国,台湾の研究者によっても常に引用されており,近代中国画家人名辞典の完成が学界に神益するところは極めて大きいと考えられる。3.エル・エスコリアル修道院図書館のくベアトゥス>写本(MS& II 5)の挿絵研究研究者:跡見学園女子大学非常勤講師安発和彰研究目的:修道士ベアトゥスによる「ヨハネ黙示録註解書」は8世紀末北スペインで書かれ当時から盛んに模写されたと推測される。現存する異本群は31冊程を数え(原本は失われた),それらは主として,スペイン美術の草創期ー10世紀に,イベリア半島北部で制作された。そこに施された挿絵は形態,色彩,空間構成法に独自の造形性を示し,ヨーロッパ中世写本芸術の歴史に特異な位置を占める。これらくベアトゥス>写本挿絵の様式に関しては,侵攻イスラムがもたらした東方的性格やケルトおよびカロリング朝伝来の諸要素を検出する研究がなされてきた。しかし,その成り立ちの解明には,たとえ,こうした多様な影響関係は無視できないにせよ,初期(特に7,8世紀)以来の北スペイン土着美術の潮流をあらためて問い直し,かつ一方で,当時(10世紀)の新たな様式創造の動勢をもみきわめてゆかなければならない。エル・エスコリアルに伝わる<ベアトゥス>写本は,現存作の中,最も初期のー作である。これ迄比較的等閑視され,挿絵も全52の一部が公にされているのにすぎないが,私見によれば,様式上他の異本にもまして,スペイン=西ゴートの彫刻群(7世紀)や写本装飾(7'8-9世紀)などと深い類縁を示し,同時に,その後(10世紀後半以降)の<ベアトウス>写本美術の展開を予告する要素を多く含む重要な作例である。そこでエル・エスコリアルの異本挿絵に関して①初期中世スペイン美術の多種の作品(<トゥールのモーセ五書>写本=パリ国立図書館Ms.N ouv. acq. lat 2334の挿絵を含む)と比較して,相互の関連性をより明確にすること。②更には,エル・エスコリアル写本挿絵の様式上の特性を,<ベアトゥス>写本挿絵の様式の成熟を示すモーガン図書館の異本との照合により,検出することは<ベアトゥス>写本美術の成り立ちの重要な一面を-51 -
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