鹿島美術研究 年報第5号
68/290

明瞭にするばかりか,ひいてはスペイン中世美術形成の研究にも寄与する所見が得られると確信される。4.クロード・ロランの風景画の研究ーピクチャレスク・ランドスケープの源流を求めて一研究者:京都工芸繊維大学工芸学部助手藤田治彦研究目的:遷を確実に把握することであり,可能な限り多くの周辺の画家たちによる表現と,種々の観点から比較検討することによって,その美術史的意味を目差している。クロードによる太陽の描写または表現の巧みさは,既に17世紀から称賛の対象とされ,19世紀にはラスキンもそれに注目している。だが,そのラスキンにとっては,太陽と光の表現において革命的な仕事を為し遂げたのはターナーであり,結局クロードは否定されるべき先駆者であった。ラスキンをはじめとして,クロードの作品を,太陽の光の効果(effect)の表現に専ら依拠したものと見る人は多い。この種の解釈に対し,申請者は,62年度の調査を通じて,むしろクロードは太陽の在り方の事実(fact)を描こうとしていたという見方を強めつつある。クロードを「効果(effect)の画家」とする見方は,18世紀から19世紀にかけて強まり,19世紀中頃の「反ピクチャレスク」の思潮の高まりの中で定着し,現在にまで及んでいる。それは太陽の光の描写に限ったことではなく,クロードの絵画全体について言えることであろう。この過程で,クロードの風景画における「事実(fact)性」は,ほぼ忘れられた。申請者は西洋における風景画の成立を,単に風景に主眼を置いたということではなく,地上の宇宙である環境としての風景に向う近代的な姿勢の確立との関係において考察しつつある。本研究はクロードの風景画が,例えば,コペルニクス説を反映したと主張することを目的とするものではないが,少なくともプトレマイオス的世界を脱却したものであることは示しえ,それは風景画史上,重要なことと考えている。以上のように,本研究は琥珀色の画面に隠れたクロードの風景のリアリティあるいは近代性を確認するという基本的な構想を含む。但し,絵画芸術は科学的事実の図解ではなく,本研究は自然科学的に合理化された結論を目差すものではない。従って,昭和63年度の調査研究の最大の目的は,クロードの風景画における太陽の表現の変-52-

元のページ  ../index.html#68

このブックを見る