鹿島美術研究 年報第6号
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アジャンター後期石窟は,最近古代後期の短時日の内に造営されたとする説が提示されいる。同様に各石窟の彫刻と絵画を観察・検討した時,アジャンター後期石窟は,一部で中世様式との接近が明らかであるため,かかる短い年代論は受け入れ難く,古代末にまで及ぶ長い年代論が妥当であると考えられる。またエローラ石窟は,彫刻様式から,古代末期造営の仏教・ヒンドゥー石窟を含み,中世前期に造営が活発になったことが推定される。以上,限られた作例のみを挙げたが,古代・中世美術の時代区分を慎重に行ない,それぞれの様式的特質を正しく捕捉することで,従来不明確であった,古代末・中世初期美術の制作年代がより正確に推測出来るようになると考えられる。更に様式面からの時代区分をすることにより,美術の主題面における古代と中世の差異が鮮明になることもトリズムが,美術作品において,古代末から具体的に反映されつつあり,中世初期に至って明確化することである。すなわち,中世は古代と違い,美術がタントリズムと強く関連することの多かった時期と言えるのである。10.日本近代ガラス工芸史一明治・大正・昭和のガラス産業及び工芸の展開について一研究者:北海道立近代美術館主任学芸員水田順子研究報告:筆者は昭和59年に「日本の硝子一びいどろ・ぎやまん・ガラス」展,昭和61年に「日本のガラス造形・昭和」展,また,昭和57年以来3年毎に「世界現代ガラス展」(いずれも北海道立近代美術館)の企画に携わり,その都度調査を進めながら,日本のガラス工芸が辿った特異な足跡について考えさせられてきた。今日数多くの日本の若い作家たちがガラスを素材とした新しい造形に取り組み,国際的にも高い評価を集めつつある。その活況ぶりは大いに歓迎すべきものであるが,いったい日本のガラス造形がよって立つべき基盤とはどのようなものと考えるべきであろう。日本のガラスは弥生時代に遡るほど古い歴史を持ちながら,<日本のガラス〉の伝統と呼べる蓄積を持たずに,江戸,明治,大正,昭和,そして現代と断片的な様相を呈してきたように思われるからである。今回の調査は,日本のガラス工芸の特質を考察する上で重要な意味を持つと思われされねばならない。理論としては,既に古代後期に展開をしていたタン_ 99 -

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