カベスタニを1人の逸名の彫刻家と見なす今までの認識を,大幅に修正しなければならないと考えるに至った。以上の成果について,報告者は次の通り報告を行なった。く論文〉「マエストロ・デ・カベスタニの研究(2)」,『藝叢』6号,筑波大学芸術学系芸術学研究室,1989年4月く研究発表〉「マエストロ・デ・カベスタニの作品について」,美術史学会第42回全国大会(於京都大学,1989年5月13日)研究者:麻布美術工学館学芸員岡本祐美研究報告:いま、私たちが寄せている`江戸”への熱い想いは、大きな江戸ブームを創り出している。庶民生活の基点ともいうべき江戸文化に学び、末来の都市生活あるいは東京像を描こうと、書店には江戸東京に関する書物があふれ、江戸開府400年の催事も盛んに行れつつある。江戸東京博物館も数年の後に開館すると聞く。しかし‘江戸”に想いを馳せ、東京の現状を考えるとき、その将来は絶望的にも思われ、これからの東京とそこに住む人間がどうあるべきかの論議も空虚でさえある。明治末期から大正にかけておこる江戸ブーム(江戸趣味)は、文学・美術の分野においても重要な問題を投げかけた。それは明治の近代化への反省を促していたのであり、日本の近代がいずれは直面しなくてはならぬ課題でもあった。その江戸趣味とはどのような性格のものであり、またどのように展開していったのか。当時刊行された雑誌に''江戸趣味”という言葉が散見する。大正5年には『江戸趣味』と題された雑誌も発行されている(毎月1回)。口絵に江戸の浮世絵をリプリントして使い、その内容は、江戸風俗を中心に、文芸・浮世絵・遊里遊女・江戸の生活などについて書かれ、寄稿者の中には三田村鳶魚や宮武外骨の名が見える。この雑誌は"El portico del Vol6 y el Maestro de Cabestany",『筑波大学芸術研究報』9号,1989年3月13.大正期の美術にあらわれた江戸趣味について-109-゜
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