19.アッシジ下院聖ニコラス礼拝堂壁画の研究研究者:岐阜大学教養部講師野村幸弘研究報告:アッシジの聖フランチェスコ教会下院にある聖ニコラ礼拝堂壁画の実地調査は,1989年3月10日から13日の四日間に亙り行われた。先ず第一日目は,フランチェスコ教会のゲルハルト・ルフ神父に会い,聖ニコラ礼拝堂へ入る許可を得た後,双眼鏡で壁画の細部を観察し,一日がかりで写真撮影を行う。神父には,照明器具や三脚を貸与して貰うなど,色々と便宜を図らって頂いた。翌日,午前中を聖フランチェスコ教会上院壁画の影響が明らかな聖キアラ教会両翼廊部の「旧・新約伝」,「聖キアラ伝」の観察にあて,午後から再びフランチェスコ教会下院に戻って,右翼廊ヴォールトの「キリスト幼児伝」,聖ニコラ礼拝堂入口上部の『聖告』と両脇の「聖フランチェスコの奇蹟」三場面,そして引き続きマッダレーナ礼堂壁画の観察と写真撮影を行う。三日目は,上院身廊の壁画上層部の「旧・新約伝」とその周囲の装飾帯,そして下院交叉弯窪部の「聖フランチェスコの寓意」四場面を観察。聖ニコラ礼拝堂に足場を組めるかどうかルフ神父に諮るが,足場は既に別の写真撮影のために組まれており,移動は難しいとのことで,代わりに約三メートルの脚楊を借り受け,至近距離からの撮影をする。夜,教会が閉まったあと,ルフ神父と上院へ行き「聖フランチェスコ伝」を観察,神父は私の望む壁画の細部写真を撮って呉れる。四日目。ペルージャヘ赴き,やはり上院の「聖フランチェスコ伝」と関係のある市庁舎のlaSala dei Notariの壁画を見る。夕刻,アッシジに戻り,再びルフ神父に聖ニコラ礼拝堂,右翼廊,マッダレーナ礼拝堂の各々の壁画の細部写真を撮って貰う。またこの後フィレンツェでは,アッカデミア美術館の館長ジォルジオ・ボンサンティ氏の御好意で,現在フォルテッツァ・ダ・バッソの修復研究所にある,サンタ・マリア・ノヴェルラの『十字架像』を間近で見る機会を得た。さて,教会側の事情もあって,足場の上からジォルナータの区分を確認することが出来ず,とりわけ三つの窓縁部に描かれている24人の聖人胸像の綿密な観察は,壁画が祭壇の上に位置しているため困難を極めたが,その他の点で若干の新しい知見を得ることが出来た。先ず,聖ニコラ礼拝堂壁画の帰属について。この壁画装飾に携わった画家の名前は知られていないが,一般に「聖ニコラの画家」と呼ばれる画家が中心となって制作に従事したと考えられている。しかしこの礼拝堂壁画には幾つかの異な-132
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