版金銀泥刷による料紙装飾法が新たに成立した。同時期に現れるこれらの料紙装飾には,面的表現を用いて対象を大きく近接的に捉える特色が共通して認められ,また,この特色が俵屋宗達の特色と一致することから,両者が密接な関係にあることは既に先学によって指摘されている。これらの料紙装飾について考察することは,宗達の様式展開を考察する上で,着過できない問題を含んでいる。本報告では,これらの料紙装飾の中から,木版金銀泥刷料紙装飾を取り上げる。この料紙装飾は,唐紙,すなわち,木版雲母刷の顔料である雲母を金銀泥に置き換えた技法であり,絢澗豪華の風を好むこの時代の嗜好を如実に反映している。現在,木版金銀泥刷の施された作品は比較的多く残されている。いずれも共通する数種の版木に基いて制作されているのだが,版木を巧みに活用することによって,変化にんだ作品群を形成している。従来,ここで使用される版木は,ほぼ同じ大きさのものと考えられてきた。しかし,今回の考察の結果,かなり大きさの異なる版木が使用されていることが確認できた。。例えば,蔦と梅の版木は,約34センチX95センチの図様を示し,藤は約34センチX30センチの正方形に近い図様を示す。また,太竹は約46センチX75センチというかなり大きな画面を持っている。木版金銀泥刷作品群には,少くとも,三種の大きさの版木が存在することが分かる。各版木が作品の形式に応じて制作されたとすると,ここで問題が生じる。木版金銀泥刷作品群に使用される料紙装飾分の寸法は約34センチX95センチであり,蔦と藤の図様にほぼ一致するのは非常に示唆的である。この二図様は巻子形式の作品用として,おそらくは,木版金銀泥刷用に制作されたと考えられる。これに対して,太竹や藤の図様が巻子形式をとる作品用に制作されたとは考え難い。太竹の場合はより大画面を要する他形式の作品に,藤の場合はより小画面の作品に応じて制作されたと推定できる。すなわち,木版金銀泥刷作品群は,既製の他形式用の版木から,巻子本に転用可能なものを選び,それに新調したいくつかの版木を加えて制作されたと考えられる。版木による諸形式の作品が既に存在し,しかも,かなり進んだ状況にあったことが窺え,版木の転用に関しても,複雑な背景が予想できる。次に,木版金銀泥刷作品群に見い出せる技法を検討する。木版金銀泥刷作品群で活用される技法は,制作過程のどの段階で施されるかに着目すると,ほぼ二種に大-153-
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