鹿島美術研究 年報第6号
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野清一•長広敏雄『龍門石窟の研究』(1941年)ではこの図版を挿図へ転載している。〔表現の特徴)この頭部は,全体に柔らかなふ〈らみがあり,各部の彫りもみな柔らかな線と面によっている。それは,咸亨4年(673)の同石窟恵簡洞中尊像や永隆元年(680)の同万仏洞中癖像などの,同じ形式をとる如来頭部がはちきれるように丸々とした輪郭と載然とした各部の線と面によって構成されているのと明らかに異なっている。同じ形式をとるこれらの中にあっては,一面彫りの浅い,線の弱さはあるものの,同時に表現の固定化,彫刻技価の熟達に至らない。一種の初発性を感じることができる。これは,この頭部がかつてのっていた体部の彫りにも共通して言える特徴であり,敬善寺洞の他の諸像,窟内全体に指摘しうることである。なお,この頭部を鼻稜の線で左右見比ぺると,像より見て右側頭部・右顎に角張ったところがあり,左右の小鼻・両眼も各々右が大きいなど,総体に右半にふくらみがある。また左右の口角では左をより深〈刻み込んでいる。(備考〕水野清一氏によれば,同氏らが1936年に龍門石窟を訪れたとき,この頭部はすでになかったという(『東方学報』第21冊1952年)。これより前の常盤大定•関野貞,『支那仏教史蹟JII (1925年)の図版68には,頭部が完好な状態の写真が載っている。水(2)菩薩像頭部〔法盤〕(単位はセンチメートル)総高43.3 髪際一顎21.6 耳張24.2 面張18.4 (形状〕垂昏を結う。垂昏は左右に振り分け,その各先端を宝冠の外側へ垂らす。宝冠は連珠を紐二条ではさんだ天冠台上に正側三面の頭飾を配す。正側面頭飾の間には各々花形飾り一箇を配し,頭飾と花形飾りとの間には花形飾りの上半部を横にくぐる位置に紐をめぐらせて結ぶ。正面頭飾に化仏を一箇石灰岩個人蔵頂一顎38.8 面奥(現状)27.5-166-図2

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