鹿島美術研究 年報第6号
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表わす。ただし上半身を欠失している。この化仏は両脚の概形が見えることから菩薩とも考えられ,左手に天衣状のものを執るが,これは足下の連台下から伸びた蓮華のようでもある。(現状〕この頭部は,現状で見る限り,器の前半部,両側頭部に付けた羽状頭飾の前半,そして両耳の全体までを彫刻し,それより後方の壁面に至る部分までは荒削りのまま彫刻を省略していたものと考えられる。壁面と接していたと思われる割損部は幅10センチばかりにすぎない。石窟将来の石造頭部の楊合,前掲如来像頭部のようにちょうど球体を半分に割ったような大きな切断面ができることが多いが,この頭部のそれは非常に面積が狭いことが特徴である。欠損部分をあげると,正面頭飾の上半を化仏の上半を含めて欠失し,他に鼻先,右耳染の先端;左耳の下半を欠失する。特に左耳下半の欠失は大きく,後頭部へかけて幅20センチに及ぶ平滑な切断面を見せているが,これは壁面より離した際の不整な面を,後日ここに安置のための支柱を打ち込む必要もあって,平滑に調整したものであろう。(表現の特徴〕この頭部は,各部の柔らかな彫り口において前掲如来像頭部と共通の感覚を有している。龍門石窟初唐期造像としては,貞観15年(641)の賓陽南洞後壁像と上元2年(675)の泰先寺洞像を除けば,ほとんど菩薩像の頭部が失われており比較に困難があるが,図3-167-図4

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