鹿島美術研究 年報第6号
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33.金代絵画史研究研究者:東京大学東洋文化研究所助教授小川裕充研究報貴財団の助成を得て,昭和63年11月10日より28日まで,アメリカ各地の美術館に散在する金代のものと称せられる絵画作品群と,その周辺の北宋後期・南宋・元時代の関連作品群について,精細な調査研究を実施し,多大の成果を挙げることができた。昭和63年度調査の対象とした主な在米金代伝称作品は下記の通りである。欠名寒林行旅図他二点メトロポリタン美術館(ニューヨーク)山風雪杉松図巻他二点フリーア・ギャラリー(ワシントンDC)欠名淫山無尽図巻クリーヴランド美術館(クリーヴランド)太古遺民江山行旅図巻他一点ネルソン・ギャラリー(キャンサス・シティー)平成元年度における金代絵画作品の継続調査が認められ,夏9月に遼寧省博物館・北京故宮博物院・上海博物館三館所蔵の関連諸作品,秋10月に台北故宮博物院の武元直「赤壁図巻」他の関連諸作品の調査研究を行なうことが可能となり,全世界に散在する金代絵画の個別作品の実査が完成の運びとなったので,在米作品を含めた金代絵画作品調査研究詳細かつ総合的に述べることとしたい。この度提出の昭和63年度研究助成報告書は,従って,会計報告を中心とする中間報告的なものにとどまらざるを得ない点、特にお許しいただければ幸甚である。34.仁和寺本別尊雑記の研究研究者:東京大学大学院博士課程矢島研究報告.. 十二世紀から十三世紀にかけて編纂が進められた図像集は,この時期の密教絵画を考える上で欠かすことが出来ぬ重要な資料であるが,今日その原本と考えられているものが遺るのは,わずかに仁和寺に蔵される別尊雑記(以下仁和寺本と略記)のみである。仁和寺本がもし心覚の筆が入った原本であるとすれば,図像学的に重要であるばかりでなく,十二世紀の仏教絵画を考える上で逸することのできない貴重な作例であるが,既に多くの先学が指摘されているように、仁和寺本に複数人の手が入っていることはまず疑いないところであり,そこに心覚自筆部分を認めうるのかどうかという問題も含め,その筆写の年代はいまだ不明確なまま残されているのが現状である。新-188-

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