ただ日本の出品点数の内訳に近い内容をもつ国々があることに注目したい。それは北欧諸国である。例えばデンマークは絵画57名162点,版画6名37点,彫刻・工芸16名24点,建築31名51点。ノルウェーは,絵画59名119点,版画1名9点,彫刻・工芸3名8点。スウェーデン,絵画37名85点,版画4名7点,彫刻・工芸10名17点,建築27名63点。また東欧のハンガリーは,絵画81名147点,版画14名25点,彫刻・工芸20名52点,建築13名となっている。ここでは,北欧の画家と日本人画家の共通点を出品点数から類推する訳ではない。しかし欧州列強諸国と比べて,北欧諸国が当時,日本の置かれていた立場に近い状況にあったことは指摘しておかねばならない。国力と出品点数の関係には無視できないものがある。さらに出品内容について吟味する時,挙げねばならない何人かの画家がいる。ノルウェーのクリスティアン・クローグ,スウェーデンのカール・ラーション,ブルーノ・リリェフォス,カール・ヌードストローム,アンデシュ・ソーン,ニルス・クロイガー,リカルド・ベリらである。これらの画家について子細に検討することは,従来の「欧米画家対日本人画家」という安値な図式を越え,また明治33年5月10日付の正岡子規宛・浅井忠書簡に告白された、日本人の日本絵画全般への幻滅さえも通り越して,われわれを極めて厳粛なひとつの問題へと導いていれるはずである。ウィリアム・バトラー・イェイツは,1898年に著した『絵画における象徴主義』という一文のなかで,「宗教心あつく幻想にひたる人びと,修道僧,尼僧,呪術師,あへん吸飲者たちは,悦惚のなかで象徴をみる。信仰や幻想のなかでなされる思索は,完成の,また完成への道の思索だからである。すべての拘束から解放されて完全性を語ることのできるものは,象徴において他にはない。」と言明している。英国は優れた「象徴芸術」を生み出しているが,「大抵の英国人は象徴的な作品だと聞くと,それをけぎらいする。」彼らは,象徴(シンボル)と寓意(アレゴリー)を混同するのだと。十九世紀末の美術について語る時,この象徴という語のもつ多様な意味を把握しなければならない。今ここに,ひとりの英国の詩人を登場させたのは,彼がアイルランド人で,父親のジョン・バトラー・イェイツはラファエロ前派の系列に属する画家だからである。実は息子イェイツ自身,画家を志して何年か絵筆をもったこともある。十八歳のイェイツはダプリンのメトロポリタン美術学校に入学している。こういう-198 (2)
元のページ ../index.html#225