鹿島美術研究 年報第6号
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ンルと同様である。そのうち冊子形式の作品は絵入り写本の総称である。いわゆる奈良絵本,版木に彫って印刷した板本,板本の絵に丹緑黄の三色で彩色した丹緑本に分けられている。お伽草子絵はその母体となるお伽草子が上述したような複雑な性格を有しているため,お伽草子絵に含まれる作品も多彩である。お伽草子絵に見られる複雑で多彩な様相は近世絵画の多様性の一端を物語るものであり,近年,その分類や整理が進められている。今回の研究テーマである現存作品の調査と図録作成にあたって,従来お伽草子絵としてとらえてきた作品のうち,お伽草子絵の展開をも見ようとする立場からすると,板本はその創作年代がある程度限られるので狭義の解釈の由来となった御伽文庫だけをとりあげるにとどめ,他はとりあえず除外した。板本を除く諸作品を対象に調査を進めてきたが,現存の確認できない作品も多くあった。また目録中にはこれまでお伽草子絵の範疇でとらえられてはいない作品でも,お伽草子絵の要素をもつと思われるものはこれに加えた。お伽草子絵の概念が明確に規定されていない現段階での目録作成は,かえって多くの問題をかかえる結果となったことは否めない。この報告書は,目録(別添)の補足として,調査をとおして得られたデータをもとに,その絵画的特徴を以下に箇条書きにしてあげ,お伽草子絵を構成する絵画要素やお伽草子絵の作域などを導き出すための資料として提出するものである。〔お伽草子絵の絵画的特徴〕1 従来のやまと絵や漢画に見られる絵画的特徴を有する作品(具体的な事例は略す)に分断,接合,転回によって非合理な構図を作る。人物は表情や姿態に類型性が見られる。で,けっして流麗な描線とはいいがたい作品もある。間に散らすなどして,視覚に強く訴えるものと,逆に彩色せず墨線だけで画面を(1冷理的な遠近感に基づいた空間描写にはとらわれず,建築物の例に見られるよう(2)人物や動植物などのモチーフは,形態の大小関係にとらわれずに描かれ,とくに(3)背景は極端に簡略化されて,ストーリーの展開に必要な題材だけで構成される。(4)描線は細くて硬質なものや,やや太い短線を何本も引き連ねて用いるものが大方(5)彩色は鮮やかで,濃採の画面に全銀の箔や泥を多用して雲,霞などを描いたり空2 既存の絵画形式や表現にはこだわらず種々の作風が混在する作品-201-

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