鹿島美術研究 年報第6号
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(10)詞書料紙には金銀泥により下絵が描かれるものがある。その主要モティーフを次(a)みずあおい,こうほね,あさざ,おもだか,葦,菖蒲,蓮などの水生植物(b)桜花,梅花,菊花,藤花房,松葉,笹の葉,枝などの植物の一部分(c)撫子,薄,女郎花,萩,りんどう,桔梗,藤袴,菊,紫苑などの秋草(d)たんぼぼ,蕨羊歯,下草類などの小形植物(e)松,桜,椋棚,藤などの樹木(6)霞は数層の段状に配し,輪郭を墨線や胡粉で表わして,内側を不透明な暗灰色,(7)冊子形態の作品では,その絵画空間は絵巻などの横に広い空間をもつものに比べ(8)絵巻形態の作品では,詞と絵の割合は詞が主になり絵が従になるもの,その逆の(9)詞は絵のなかに入り込み,余白やモティーフ上にまでおよぶこともある。国文学(h)刈田に鹿,楼閣に遠山,波に帆掛け舟などの具体的描写処理する。いわゆる白描のものがある。青灰色に塗りつぶしたり全銀箔を粗密に蒔いて構成するものから,墨線を幾筋も引き重ねただけのものまで多種が存する。雲の表現には,左右の層を厚くし中央を薄くした霞の中央部に金泥で描かれたもの,霞の背後を縫うようにして描かれたものがある。霞や雲が画面の天地および中央にかけて複合的に配されるが,冊子形態をとる作品においては簡略化形式化した霞や雲を多用する傾向が顕著である。て狭いにもかかわらず,霞や雲に挟まれてさらに限定され,なかには天地の霞と中間部の絵の比率が等しいまでに狭められたものもある。もの,またそれぞれが対等の関係にあるものなどさまざまである。ではこれを「絵詞」と呼ぶ場合もあるが,通常用いられている「詞」と区別するためには「画中詞」とすべきであろう。本文や作中人物間の会話などには番号がふられ,ストーリーの展開が絵画モティーフとともに了解される。に記す。(f)蝶,蜻蛉などの昆虫類(g)鶴,亀などの吉祥動物(i)岩,流水,土域,それぞれのモティーフは紋様として単独で一定のパターンをもって繰り返されたり,数種類組み合わされて山水や水景などを構成したりもする。絵巻,冊子いずれ霞などの点景-202-

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