鹿島美術研究 年報第6号
230/304

38.六道絵における説話の受容とその表現第1段階として,明らかに六道からの救済あるいは六道における罪の軽滅を題材とすの形態においても,詞書料紙は基本的には紙継ぎや頁ごとに異なったモティーフの下絵が選ばれ,同一の下絵が続くことはない。また山水や水景などの具体的な図柄は,絵巻形態の作品では各巻の第一紙目に,冊子形態の作品には表紙に用いられるのがもっぱらで,作品の途中に突然現われるというような例は見られない。さらに装丁を華美にすることを意図した作品では具体的な図柄をもった料紙が連続して用いられるが,この場合も同ーモティーフが描かれた料紙を継ぐことはない。上述したお伽草子絵の絵画的特徴がより普遍性をもつものとなるように今後も引き続いて現存作品の調査を行ない,考察を重ねたい。また詞書料紙の特徴については,短冊や色紙の下絵,謡本の表紙などと類似点が見られ,お伽草子絵の制作の場を考える上で何らかの手懸りになると思われるので,多くの事例を集めて具体的に考察し,お伽草子絵の制作や鑑賞の在り方の解明に発展させたい。研究者:兵庫県立歴史博物館学芸員研究報現存最古の六道絵といわれる東大寺二月堂本募光背の毛彫地獄図から,江戸時代の絵入り版本まで,今日,六道絵として論ぜられることの多い作品はざっと40■50件にのぼるであろう。それらがそれぞれの時代の六道観を反映して制作されたものであることは言うまでもない。本研究は,これらの六道絵において説話がどのように取り入れられ,表現されているかを検証することにより,六道絵制作の契機とその変遷を探ろうとする試みである。何分にも今のところ最終的な結論を出すに至っていない。以下に現在までの研究のとりまとめを行い,また,その過程において生じた問題点を報告することとしたい。この試みをすすめるにあたり,まず筆者は六道絵の遺品を概観し,六道からの救済に対する考えが六道絵の変遷に関わる最も大きな要素であると予想した。したがってる説話を組み入れた作品の抽出とその内容を把握することとした。なお,ここにおいては中世における『往生要集』や『地蔵十王経』といった仏典に基づいた六道絵を対象とし,社寺縁記や各種霊験記といった説話の中で描かれた六道絵についてはとりあえず省いている。村亨-203-

元のページ  ../index.html#230

このブックを見る