鹿島美術研究 年報第6号
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また,設置の方法に問題のあるものが多かった。雨水の排水をよくするため,台座との間にスペーサーを入れて設置する方がよいと指摘された。コーティングについてては,現在はワックスを用いている様であるが,小さい孔のあるブロンズにワックスを用いると,その孔から出る水蒸気により,白い斑点が出来たりする。インクララック(合成)とワックスを合わせて使用することを勧められる。0鎌倉の大仏調査鎌倉の大仏調査は,Weil女史により行われた。この彫像ロダンのパルザックを調査の修理は過去に何回が行われているので,それと現在の状態を比較し,修理の方針を再検討した方がよい。硫黄酸化物の増化による害の発生,海岸近くであることによる塩害の発生も認められたので,それらを防ぐため,インクララックなどのコーティング材の塗布を勧められた。(詳細はWeil女史よりの報告書を参照のこと)0上野公園・笠間日動美術館,京都国立博物館内の彫像について口頭での意見を得たのみであるが,大気汚染から彫刻を守るために,詳しい調査を行った後,コーティング材塗布,排水を考慮した設置法を指摘された。笠間のものに発生している黒錆,結晶については,研究室における分析を行うよう勧められた。新しい美術館が年々増設される傾向にある今,野外に展示される彫刻も非常に多い。しかしそれらの修復保存に関する正しい知識を持たぬままに,修復の専門家に任せているケースが大多数である。実際の専門的な技術は修復家に頼るにしても,その基礎的知識を学芸員が持つことは必要不可欠である。そういった状況の中で,今回世界的に活躍されている3氏が来日。具体例を示されながら行なわれた講義は,問題に直面している彼等にとって,大変貴重な体験であった。第3日目のディスカッションにおいても,現実に抱えている問題をそのままぶつけ,講師も事前に視察された作品,大仏等の例を交えながら,活発な討議がなされた。また講義のみならず,懇親会においても3氏にじかに触れ,他館の学芸員同士の交流や情報交換が行われたことも非常に有意義であった。スケジュールの調整など様々な問題は残ったが,この体験を生かし,次なる段階へ発展させてゆきたい。するマラベリ博士-214-

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