5.<アヴィニョンの娘たち>を中心とするピカソ作品の研究の画家の作品とみなされ,最近になって1390年代のフィレンツェの画家による作品とする有力な説が提出された小さな「傑刑図」がある。その十字架上のキリストの左右に,顔を有する天体が浮かんでいる。これまでの研究から私は,キリスト自身にとって,右手に月,左手に太陽を描いた特異な作品だと指摘したが,王立美術館のキュレーター,オーラフ・ケスター氏の同意は得られなかった。帰国後,これまでに収集した太陽と月の図像を資料として2度に渡ってコペンハーゲンに送り,再検討を促した結果,1989年5月になって,王立美術館の「傑刑図」は太陽と月をキリストの左と右(観者にとっては右と左)に描いた特異な作品であるという意見に同意するというケスター氏の手紙が届いた。欧米の研究者の西洋の伝統への信頼は根強く,上記のような破格的表現は考えてもみなかったのであろう。その一方,東洋の一研究者の私見に耳を傾け,再検討の後にはそれまでの意見を翻してくれた研究者としての姿勢には感心してもいる。研究者レベルでの多少の国際交流にはなったのであろうか。これらの一連の調査研究を通じて作り上げた基礎の上に,独自のクロード・ロラン研究,そしてランドスケーフ゜研究を展開して行きたい。研究者:神奈川県立近代美術館学芸員太田泰人研究目的:現在パリのピカソ美術館では「アヴィニョンの娘たち展」という展覧会が開かれており,このピカソの代表作を中心に関連の習作,デッサン,スケッチブック類が一堂にまとめられている。そこには普通ピカソの遺族の手許にあって容易には調査しがたいスケッチプック等の資料が含まれており,このまたとない機会を利用して,それらを調査,また同時にピカソ美術館所蔵の作品資料を研究するというのが第一の目的である。また同じくパリのポンピドー・センターにおいては「晩年のピカソ展」という展覧会が開かれ,それに関連して世界的なピカソ研究者を招いて講演・討論会が企画されているのでこれに参加したい。とりわけ4月14日にはアメリカのレオ・スタインバーグ教授が来られるので氏を中心とする討論会に参加したい。これが第二の目的である。-238-
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