て防除するのが合理的と考え,文化財の長期保存に関する研究の一環として環境制御法を研究している。文化財は,それ自体が養分供給源である。また,温度制御によるカビの繁殖防止を考えるならば,文化財を常時低温に保たねばならず実現不可能である。そこで,筆者らはカビの繁殖防止に湿度及び酸素濃度の調節と不活性ガスの利用を考えた。一般に,建造物の内部空間の湿度は,空気調和施設による調節が常識となっているが,空調機械を24時間作動させている博物館等は殆んどなく,文化財の所有者が全て空調施設を設備しているわけでもない。筆者らは,文化財へのカビの発生を防除するのに,環境の湿度調節が簡便かつ経済的に実施できる方法を考案した。すなわち,湿気と空気の遮断性の点で他のプラスチックフィルムより格段にすぐれた性能をもつ二軸延伸ビニロンフィルム(以後BOービニロンフィルムと記す)で,密閉空間を作成してカビの発生を防止する方法である。本会議では,この方法を研究・開発・実践した結果を報告した。その内容は,BOービニロンフィルムの構成と性能,調湿剤ニッカペレットの性質及び性能,調湿紙の性能・汚染吸着能及びその実例,カビの生育に対する酸素濃度の影響,カビの繁殖中の酸素濃度の推移,カビの生育に対する相対湿度・酸素濃度・不活性ガスの影響について述ベ,さらに次の応用例も紹介した。(1) 書籍のBOービニロンフィルムと調湿紙による保存法このとき空調設備のない櫓で書籍の湿度を一定に保つために,BOービニロンフィルムと調湿紙を利用した例。している例。さらに,そのハニカムで調湿パネルを開発した例。(5) 瑞鳳殿の出土遺物の保存にBO—ビニロンフィルムを利用した例。密閉空間の相対湿度を調節するだけでなく,環境内に存在するコンクリートからのアルカリ粒子,各種溶剤,木材からの樹脂等の空気汚染因子を吸着できる。実例として,我が国の新設博物館で開館前に建材からの汚染因子を除去している状況を示した。文化財の保存環境の高湿度は,生物劣化を促進するばかりでなく,文化財材質の化(2) 宮内庁書陵部書庫の書籍は,書庫の建替え期間中一時的に富士見櫓に移動した。(3) 調湿紙製ハニカムを開発し,これを日本画,屏風の収納箱,油絵の保存に利用(4) 美術品等文化財の輸送や展示に利用する例。(6) 調湿紙は,混入したゼオライトが大気中の汚染物質を吸着する性質があるので,-245-
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