4.おわりに学的・物理学的劣化にも影響するので,環境の湿度制御法の研究は,文化財の保存にとって必須の研究課題である。筆者らは,カビによる文化財の生物劣化を環境の湿度調節によって防除する方法を研究・開発してきた。本会議では,日本で開発した環境制御法の一例として,BO—ビニロンフィルムと調湿紙を用いた密閉方式を紹介した。世界の各国には,湿度変化に敏速に応答するそれぞれ独特の調湿材が存在していると思われる。筆者らは,各国の保存科学者がそれぞれ独自の調湿材を研究・開発して,自国の文化財保存に貢献するべきと考えている。もし,この問題について国外から要請があれば,国外の保存科学者と共同研究する用意が筆者らにあることも伝えた。さらに,持参したBO—ビニロンフィルム,調湿紙,調湿ハニカムは,講演終了後組織委員会に進呈した。参加者は,高い関心を示していた。上述の報告に加えて,筆者のフォクシングに関する研究を約15分間スライドで紹介した。フォクシングについても参加者の関心が高く,講演後多数の質問を受けた。筆者は,この度文化財の生物劣化に関する国際会議に参加する機会を得た。文化財の生物劣化に従事する研究者は,いずれの国でも少数派に属する。各研究者は,この分野の研究途上で種々の問題に出合ったり研究が停滞したとき,相談相手もなくなかなか解決方法を見出せない場合がある。この会議は,そのような文化財の生物劣化の研究者に国際的な研究交流の場を提供するであろう。すなわち,参加者の報告は,参加者のそれぞれに示唆を与え,今後の研究の展開に参考となるであろう。本会議がこのような見地から,今後も世界各地で3年毎の継続開発を決議したことは,世界の文化財の生物劣化に関する研究の発展に極めて有意義な結論であった。筆者も本会議に参加して,文化財の生物劣化研究の世界の動向を知り,我が国におけるこの分野の研究に展望を得たことは,何にも変えがたい収穫であった。特に,者自身の重要な転換点となったように思われるのである。鹿島美術財団のご援助に深甚の謝意を表わす次第である。-246-
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