鹿島美術研究 年報第6号
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(3) 浮田一惹を中心とする復古大和絵の研究おもられる住居の遺構である。床のモザイクとともに,かなりの高さの側壁面のフレスコ壁画も発見された。赤を地色に,水差しや燭台をモチーフにした装飾壁画は,断片ながら,非常に品の良いものである。以上の五講演をはさんで,研究者および学生との交流も,フォヴリエ教授は精力的に行なわれた。日本の西洋美術史研究者の多彩な顔ぶれにも感銘を受けられた様子である。さらに,東京で,また奈良や京都において,美術館や社寺で知りあった人々の西洋文化に対する知識の深さに驚かれていた。そして神社仏閣の木造建築,庭園の美しさとともに,現代日本の姿をフランスにおいて広く人々に知らせたいと言い,鹿島美術財団に謝意を表しつつ帰国された(名取四郎記)。申請書:東京大学文学部教授招致研究者:メトロポリタン美術館学芸員別役恭子今回日本で個人コレクションの調査を速急になし遂げる事は不可能な事が明らかになった。日本の場合米国と異り,所有者,所在地は判明していても拝観の承諾を得る迄非常に時間がかかる事が多い。又過去に出版された図録等で絵の存在は一応判明していても,その現所有者並びに所在地をつきとめる事が非常に困難である。従って滞在の日程も別紙のごとく当初の提案より三倍も長びいたものになってしまった。許可が得られない為にまだ未調査のものもあるが,これだけの資料を集め調査を進めるは,経済的援助なしには到底なし遂げられるものではなかった。慎贋は別として一悪の作品だけでも二百点近くに接する事が出来た。今迄一惹の花押を実際の作品を通して見た事はなかったが,この調査によりメトロボリタン美術館の「婚怪草紙絵巻」の箱書にある落款と花押(今迄一惹の自筆を推定されてきた)に近いものに接し確認する事が出来た。又一態と三代清水六兵衛の合作という非常に珍しい茶益を見る事も出来た。薄茶色で多少下張りの茶紐の中腹にはわずかな凹みがつけられ,雁が二羽飛び立つ灌酒な絵付けで,底には一悪のかな書きの落款(場合に応じ,字体を使い分けている)と花押,それに六兵衛の「清」の印が押されている。これは一恵の活躍が勤王派として余りにも強調され過ぎ,今迄全然知られていなかった面を語ってくれる重要な資料である。又一般に知られている古大和絵の勉強のみならず,中国画や四条円山派への繋りも一悪自身の作品を通して分ってきた。辻惟雄-258-

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