鹿島美術研究 年報第6号
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しかし何と云っても最大の収穫は過去十年間探し続け,ほぼ締めかけていた作品にやっと巡り会う事が出来た事である。「婚怪図」と題されている六曲一双の屏風で,その構図はメトロポリタン美術館の「婚怪草紙絵巻」第三段,第四段とほぼ同様だが絵巻物よりも密度が低い為それに先だつ試作だったと思われる。これは昨年五月二日の東方学会の発表でも指摘した事であるが,その時点では昭和三十年に名古屋美術倶楽部より出版された図録に掲載されている小さな図版に基いたものであった。しかし今回それが実際確認出来た事は何よりの収穫であった。これを基盤に従来考えられていた「婚怪草紙絵巻」が和宮降下への風刺に基いたものという通説を覆えす新説を樹立する事も出来る。今回改めて感じさせられた事は,地味な調査の重要性で,その蓄積により初めて新しい結果を得る事も可能になるという事である。一慾と一慇の師,訥言の作品は大多数が関西,特に京都,名古屋地方に多いが,昔から名古屋地方は排他的という評判があり,外部へ知られる事を避ける傾向が強い様で,それが今回の調査の進行にも障害になっていると思われる。去る昭和六十三年十一月二十三日,名古屋で復古大和絵を専門とする森村記念館が一般公開された。これは故森村宜永画伯のコレクションを基に始められたもので,画伯は父森村宜稲画伯と共に復古大和絵作品の箱書を多数残した事でも知られている。筆者も一昨年暮,画伯にお目にかかる機会があり,色々お話を伺う事が出来た。今回師の養子,森村高試氏とも接し多少なりとも助言出来た事を幸に思っている。それにしても現在の東京の物価は衣食住等総て世界最高で,貴財団からの援助なしには筆者の研究調査も不可能であった事を強く感じ心からお礼申し上げたい。日程:6月15■20日9月4日10月1,2日16, 21日19日柳孝,赤岩家岡田一郎,藪本荘五郎永坂知久MOA美術館壺中居,太田美術館森村記念館,熱田神宮古玩堂:京都:大阪:名古屋:熱海:東京:名古屋259-

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