鹿島美術研究 年報第6号
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あるじ(イ)海外派遣(1) ファウンド・オプジェクトーヘンリー・ムーアにおける自然と造形一研究者:福岡市美術館学芸員後小路雅弘研究報告:海外における研究活動状況—私は小石や岩,骨,木,草など自然の事物を研究して,形態とリズムの原理を覚えた(ヘンリー・ムーア1934年)今世紀の代表的な彫刻家のひとりヘンリー・ムーア(1898-1986)が製作の基本を「自然の観察」に置いていることは良く知られている。ムーアは1930年代の初頭から,小石や動物の骨,貝殻,流木,フリントなどを拾い集め,そこに自然の造形の本質を見い出して,自らの作品製作に応用してきた。ムーア独得の「有機的形態」は,こうした自然の形態を基礎にして,いい換えればムーアの集めた自然物(ファウンド・オブジェクト)の形態研究とその作品への応用を通して,初めて可能になっている。またムーア芸術とファウンド・オブジェクトとの関係は,時とともに変化し,それがムーア芸術の展開に重要な意味を持つと推察され,いわばファウンド・オブジェクトはムーア芸術の秘密を解くカギであると思われるのである。ヘンリー・ムーアは,1940年代のはじめ,ハーフォードシャーのマッチハダムのペリ・グリーンという小村に居を構え,以来40年以上そこで製作を続けてきた。広大な土地に自らの野外彫刻を設置し,機能別にスタジオを散在させている。マケット・スタジオという彼の彫刻の最初の小原型が生まれる場所に,彼はファウンド・オブジェクトを置いて,発想の源としてきた。今は主が逝き,ヘンリー・ムーア財団が管理するこのマケット・スタジオに,かつてのままファウンド・オブジェクトが置かれている。わたしは,散逸する前にこのファウンド・オブジェクトを調査,記録し,ムーア芸術におけるファウンド・オブジェクトの果した役割を考えるための基礎的な資料とすることは,ムーア芸術の本質を探る上で,極めて重要であるばかりでなく,今世紀において芸術が自然といかに関ったかという問題を考える上でも,欠くことのできない研究となり得ると考える。そうした認識から,わたしは,ヘンリー・ムーア財団におけるファウンド・オブジ-261-

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