鹿島美術研究 年報第6号
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きた。各遺跡ではチャルプカ氏をはじめとする地元の専門家が最新の研究成果にもとづいた解説を行い,それに従って深く作品に接することができた。また,各遺跡ではそれぞれの岩面画を制作したアボリジニの子孫に当たる人々が参加者を待っていて,岩面画にまつわる伝説やそこで行われた儀礼などについて詳しく語ってくれた。作品はきわめて豊かで,様々なモティーフが様々な様式で制作されていた。この地方,アーネムランド(ArnhemLand)の岩面画の様式展開と年代決定を研究しているチャルプカ氏によれば,約18,000年前に絶滅した動物が描写されていることから,少なくともそれ以前に最古の作品が制作されたとのことである。この年代は世界的に見ても非常に古く,オーストラリアの岩面画の重要性をより深く認識することができた。とりわけ私の関心を捉えたのは約15,000年前の制作と考えられているダイナミックな人物像の集合表現である。私がかって調査研究したスペイン・レバント美術の人物像と類似の表現であり,なおかつそれ以上に躍動感に満ちたすぐれた芸術的達成である。グループによる見学で十分に観察する時間的余裕がなく,今後再訪して詳しく調べてみたいと思った。以上,AURAの第1回大会は,国際的な意味でも,その規模において,また内容において大成功をおさめたといえる。次回,AURAの第2回大会は4年後,オーストラリア北東部,クインズランド州の都市,ケアンズ,(Cairns)で開催されるとのことである。私は以下に述べるとおり,岩面画研究の国際的な状況を今回つぶさに把握したこともあって,さらに研究を推し進め,次回も出席してより充実した発表を行いたいと思った。(2) 海外における岩面画研究の動向岩面画の研究史は今世紀になって始まったにすぎず,まだまだ若い学問といえる。しかも,後期旧石器時代の洞窟壁画が多く発見されているヨーロッパがこれまで研究の一大中心地であった。しかし,近年になり岩面画の調査・研究は世界各地に広がるようになった。それを如実に示したのが今回のAURA第1回大会であり,従来世界的にまったく知られなかった国々の研究者によりそれぞれの国に分布する岩面画について詳しく報告された。そのことにより,岩面画という芸術-268

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