鹿島美術研究 年報第6号
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伝統の世界的な普遍性と,それぞれの地域の固有性とを知ることができた。今後,さらに多くの国で研究者が育ち,より以上に世界各地の岩面画が紹介されることになろう。研究の深化という面でも,今回の国際大会はひとつの画期を研究史に与えたといえる。これまで岩面画を調査研究してきたのはおもに考古学者であり,遺跡の紹介と作品の記述,様式展開の分析が発表される研究の大部分を占めてきた。しかし,岩面画は先史美術として考古学的遺物にとどまらない面を持っており,岩面画研究の新たな可能性をひらく研究も今回多く発表された。美術史学はもとより,心理学,哲学の分野からも研究者が参加して,それぞれ興味深い見解を披露した。また,世界的な文化遺産としての岩面画の保存と公開も近年重要な問題として扱われるようになった。オーストラリアやアメリカ合衆国には自然科学系の岩面画保存研究の専門家も多くおり,緊急の課題として熱っぽい議論の応酬されたことか印象的であった。以上,AURA第1回大会は岩面画研究が今後さらに活発になっていくだろうと予想させるに十分な,充実した国際大会であったといえる。-269-

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