鹿島美術研究 年報第6号
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3.美術史的文脈におけるラファエル前派再考ンド会社の商人達によって盛んに行われ,これらは一般に南蛮漆器とよばれ,近年ヨーロッパ各地から発見される,量,器種は彪大なものであった。この輸出は江戸時代鎖国によって余儀なく中断された。しかし,鎖国時にあっても,新たにオランダ,出島を通じてヨーロッパ各地に輸出された漆器群があった。これらは俗に紅毛漆器と称されるもので,南蛮漆器とはその様式を異にしている。黒漆地に蒔絵や螺細を用いたもので,その器形,意匠には西洋の影響をうけたものが多い。そのうちでも,出島・オランダ商館の注文に応じて,西洋の銅版画の下絵で,ヨーロッパの器形に蒔絵・螺細で装飾した蹴笥・額・ペンダント等の輸出漆器が注目される。さらに幕末,長崎で製作された螺釧の下に顔料をり込んだガラス絵風の螺細の技法があり,この技法は輸出漆器に施こされたのが主流で,我が国のにこの種の遺品はほとんど伝存していない。これらは幕末から明治初期にかけてのヨーロッパ各地の万国博やその後の輸出漆器の主流のさきがけとなったものである。昨年開催した「シーボルトと日本」展の資料を中心に研究報告するものである。独協大学講師高橋裕子英国の芸術家グループ「ラファエル前派」については,ラファエロ以前のイタリア初期ルネサンス芸術に鼓舞された運動であることは自明として考察を省略し,主題の文学的内容や現実のモデルとの関係に関心を集中させるのが,従来の研究の一般的傾向である。「ラファエル前派」の名称は,グループが自ら名乗ったものではあるが,ハントやW.M.ロセッティが目指したのは,イタリア初期のルネサンス芸術の再生ではなく,「因習に従って安直に制作される芸術の否定」「表現すべき独自の着想を持つこと,自然そのものに忠実であること,かつ先人の優れた-18 -

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