4.橋本コレクションを中心として中国近。現代画の研究奈良大学文学部教授古原宏伸大阪府高槻市在住の橋本末吉氏が達成された中国絵画コレクションは,明清画の優品を含むとして世界に聞こえているが,近現代画の部門でも,アヘン戦争以後,1980年代に至るまで,画家180人,作品460点という有数の大収集である。近年中国の定期刊行物には,近代絵画運動の旗手として活躍した老大家の回想談や聞き書が,毎号のように掲載されている。「旧を守りて変ぜざれば,中国の画学は遂に絶滅すべし」(康有為)といわれてから半世紀,運動が回顧と展望の時期を迎えていることを示すものだろう。1920年代,各地で美術学校が設立されるのと前後して,西洋画の素描,古画の摸写のいずれを制作の基礎におくべきかという華々しい論戦は,洋画の技法的効用はみとめても,伝統画法の権威と優位は不動とする認識の一致で収束したかにみえる。しかし,その後の運動の軌跡は,新しそうな意匠でも,前王朝の大家を取材し,習倣するという制作の構造からいって,五百年来繰返してまた中国絵画史の本質とは少しも変っていない。いわば古典主義の終焉を先送りする形で,制作を続けているわけである。近現代画の多くが,「太倉の粟,陳々相因る」(『漢書』)式のマンネリズムと映るのは,このためである。「西洋画の必要なものを収吸し,国画を豊かにしてきた」というような安易な把握では,この状況は理解されまい。西洋画受容の限度と,伝統への回帰,留学生がもたらした日本近代絵画の影響など,この民族の資質自体を問うものとして,中国人とは視点を異にした実証的研究が要求されている。橋本コレクションを手がかりに,中国本土の論調の動向と合わせて,中国近現代運動とは何かを考えてみたい。-20 _
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