3.雪村の初期の作品についてまたやまと絵系・漢画系という流派様式の枠組を越え,そして何よりも扇面という画面形式のそれを越えて,広く中世から近世に至る絵画史を見渡す視野の下に収束するものでなくてはならない。室町時代やまと絵屏風(大画面やまと絵)に対する研究は,近年とみに盛んなものとなり,有益な論考が相次いで発表されている。本研究は,それら先行の諸成果を吸収継承しつつ,室町絵画史を扇面画の裁り口から考察するものであると同時に,古代より近世に至る扇面画の通史を美術史上で体系化する試みでもある。室町絵画史探究へ向けての室町扇面画の実証的研究と,扇面画ジャンルの史的展開(伝統と創造)及び表現技法の特性の把握を目指すものである。扇面画は同時代様式としての大画面作品と緊密な関連性を顕現していると同時に,扇面画という特有の機能が呼び込む独自性をも付随させ展開してきた。本作品は実作品の精査研究と二義的資料の体系的整理によって,扇面画をその両面から考察しようとするものである。一常陸との関連一研究者:茨城県立歴史館学芸部主任研究員小川知研究目的:雪村周継は,雪舟に続く室町水墨画の代表的作家として位置付けられる。作品もその個性的な表現ゆえに,国内はもとより海外においても数多く所蔵されている。しかしながら作品と作家双方において,研究が十二分に進展しているわけではない。その理由は,作品における個人様式の幅があまりに広いことと,雪村の経歴そのものが謎に包まれている部分が多いことにある。雪村の個人様式の幅の広さは,『雪村周継全画集』(講談社昭和57年)を見渡しただけでも了解される。雲谷派が流派として果した幅広い様式展開を,雪村個人が一人で成し遂げたかのようにもみえる。真の雪村の作品を精選するための基準を確立する必要がある。更に雪村の生涯が謎に満ちていることは,すでに江戸時代の画伝史に出生地に異説が生じていることでも理解されよう。現在常陸出生説は美術史の世界でも定着したか‘,しかし依然として雪村のイメージは不明確で具体的な雪村像を把える必要もある。今回の調査研究は,これらを少しでも明らかにする試みに過ぎないが様式研究も含め初期作品の位置付を計り,『説門弟資云』を生んだ常陸での具体的な状況を調べるな-25 -
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