鹿島美術研究 年報第6号
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4.浦上春琴研究5.格狭間意匠の変遷ら,これが作品全体の編年の試みの端緒となることも期待できる。作品調査と年譜作成研究者:岡山県立美術館学芸員川延安直研究目的:「問題の所在」我国文人画の最高峰と評される浦上玉堂の長男として生まれた浦上春琴は,その洗練された画風によって当時の京都画壇において高い評価を得ていた。また,京都の文人・画人との幅広い交遊,とりわけ頼山陽を中心とする文化人グループとの親密な交遊は,絵画史のみならず,江戸時代後期の文化史においても看過せない問題を含んでいる。しかし,春琴自身も含めて春琴と同世代の文人画家については,玉堂,竹田といった前代の画家と比べ,その本格的研究は未だ為されていない。春琴の評価についても,生前の名声に比して十分で,伝歴,画業に関する調査は未整理の状況にある。「内容」頼山陽を中心とする江戸時代後期文人・画人の資料中に散見する春琴関係の記載を整理することによって春琴の伝歴,画事に関する年譜を作成し,当時の画壇での位置について考察する。現存する春琴作品の調査並びに写真撮影を行い,作品に関する基礎資料の作成を通して,春琴画の画風の変遷を明らかにし,さらに両作業の後,日本絵画史上における春琴の意味についても考察する。「方法」頼山陽と彼の周辺の文人・画人に関する文献資料の調査。国内各地の美術館・博物館,個人に所蔵される春琴作品,関係資料の現地における調査,撮影。収集した資料による比較検討。「期待される成果」春琴の行動,交遊関係などを明らかにすることで,江戸時代後期の文人・画人の生活様式の一端を知り得るものと思われる。また,春琴画の特質を明らかにし,春琴画と他の文人画家,粉本,画論との関係,長崎を中心に将来された中国絵画受容の問題等を考察することで,江戸時代後期文人画の制作状況を窺い知ることができるであろう。研究者:サントリー美術館学芸員内藤-26 -栄

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