鹿島美術研究 年報第6号
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6.黄槃宗の道釈画について研究目的:今日の工芸史研究の多くは,技法史や図様,文様の変遷史に偏りがちである。その原因のひとつは,工芸史研究が金工,漆工,木工,陶磁,染織などの素材ごとに分野が細分化されていることが挙げられよう。私の研究は,こうした分野の壁をのり越え,さらに絵画,彫刻,建築などの他の美術史分野との連繋を深めることで,工芸史研究を技法史,文様史の枠から一歩進め,パノフスキーの行ったようなイコノロジー研究を工芸史において試みるものである。今回,格狭間という比較的等閑視されがちであった一部分に注目したのも,格狭間といえども,その使われている環境を検討することで複雑な意味が込められていることを指摘したいからである。今度の研究で,格狭間は蓮池,或いは蓮華という意味を持つことが分かったが,それによって,格狭間を有する工芸品の持つ意味,さらに使われた方法も具体的に窺い知ることができる。このような研究方法を応用し,格狭間以外の工芸品にも研究を試み,その図様発生の起源と起因,また意味を検討することができる。したがって,これまで美術史研究において,とかく孤立しがちであった工芸史研究が,他の分野の成果を採り入れながら,さらに幅の広い,新しい可能性を持ったものに発展すると考えている。研究者:北九州大学文学部教授錦織亮介研究目的:江戸時代初期,隠元禅師を中心とする中国僧達によって伝えられた黄槃宗は,在来の禅宗に大きな刺激を与えたが,その影聾は宗教界にとどまらず,芸術・文学・医術・武道・煎茶などの文化全般に及んでいる。隠元が宇治の万福寺を開いて約90年後には,全国51ヶ国に897ヶ寺もの黄架寺院が建立された事実は,黄槃禅の教理にもよるが,当時の知識階級の多くが,いかに中国文化にあこがれていたかを示すものであろう。しかし今日,黄槃宗の名を知る人も少いように,黄架宗を通じてもたらされた中国文化が,わが国の江戸文化に与えた研究への取組が迫られているといえる。美術の分野においても,日本人の嗜好に合う文人画は早くから注目されて来たが,その他は等閑視されてきており,むしろアメリカの若手研究者による取組がめだつようにも思われる。絵画をはじめ,書跡,彫刻,工芸,建築,策刻などの広い分野でのを価小評価しているように思われ,今後の学際的-27 -

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