鹿島美術研究 年報第6号
44/304

7.日本美術における「南洋」像の形成1. 日本近代美術史の見直しをはかる。8.近代美術館における美術館運営の理念と実践研究によって,はじめて明,清美術が江戸時代の美術に与えた影響の全容を明らかにしうるものと思われる。この度希望する道釈画を中心とする黄槃絵画の調査研究も,以上の主旨に沿うもので,数年来行ってきた肖像画の分野についての研究に続けて,さらにその一角を解明する作業であると信ずる。研究者:兵庫県立近代美術館学芸員木下直之研究目的:明治末年から昭和初年にかけて,南洋の風物を描いた日本画が増加する。これまで,野長瀬晩花の作品にゴーギャンの影響を指摘する程度にしか,この現象は注目されてこなかった。しかし,このことは日本画家たちの意識に南洋が大きく侵入してきたことを示しているのであり,大正時代の広範な南洋プームを明らかに反映したものである。日本の近代化は即ち西欧化であったとする従来の美術史ではとらえきれないこの現象を,建築,工芸,写真,映画,漫画,デザインなどをも含めた広い視野で,初めて明らかにする。ところで,南洋という概念は明治20年代に成立し,明治末年にはすでに,南洋を野蛮国,あるいは楽園と見なす南洋観ができあがっている。このイメージはただ単にヨーロッパからもたらされたのではなく,明治以前の南方認識の上に形成されてきたものである。従って,本研究はまた,江戸時代と明治時代を分けて語られがちな近代美術史を見直すことにもなる。2.新しい世界認識が,どんな造形表現を獲得し,どう大衆化し,どう政治的に利用されるか,そのメカニズムをたどる。それは近代日本のアジア認識がどう成立しているかを明らかにすることでもある。ー展覧会企画と財政制度を中心に一研究者:北海道立函館美術館学芸課長中塚宏行研究目的:美術館先進地域である,パリやニューヨークの美術館の実際の運営状況がどのよう-28 -

元のページ  ../index.html#44

このブックを見る