鹿島美術研究 年報第6号
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的な研究の基礎をなすものと思う。13.宋元時代禅宗人物画の研究(水墨画と頂相)研究者:東京芸術大学美術学部助教授海老根聰郎研究目的:宋元時代の禅宗人物画は,かつて,中国の絵画鑑賞界から排除された作品群である。そのため,日本にのみ遺存している中国絵画である。しかし,これらの作品群の従来の研究は,文献遺品両面での実証的研究が不足しているばかりではなく,なによりも,その視角にある偏向がみとめられる。それは,これらを始めから,禅宗という枠内にとじこめ,特殊なものとして観察しようとする態度である。今回,この作品群を中国絵画の流れの中で,新たな視点からとらえなおすことをこころみる。第ーは,禅宗水墨人物画を,ドローイングの絵画として把握して,水墨山水画とは異なった系譜を構想すること。第二は,頂相を中国肖像画の歴史の中におき,従来行われていない中国肖像画史を考える手がかりとすることである。そして,これらの考察は,併せて,日本の中世絵画の絵画理念の展開の道筋を新たに把握しなおすことにつながるものと考えられる。14.金代絵画史研究(継続)研究者:東京大学東洋文化研究所助教授小川裕充研究目的:金代絵画史の全体像を把握することは,金代絵画史が影響を与えた元代絵画史の理解にとっても,金代絵画史が影響を蒙った北宋絵画史の理解にとっても,不可欠の重要性を有している。また,南宋絵画史との同時代的かつ相互的な影響も無視しえないとすれば,金代絵画史に対する理解は中国絵画史研究の要をなすと言っても決して過言ではない。南宋を正統王朝と見なす伝統的な史観の中で,宋代絵画と混同されたまま,充分な評価を与えられて来なかったその一方で,本来宋代絵画に属すべき作品までが,さしたる根拠もなく金代のものに比定され,より一層の混乱を招いている,そ-32-

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