ういう現状にある金代絵画史の調査研究を今回試みようとする所以である。15.金銀泥絵の探究一倭漢朗詠抄より宗達まで一研究者:閲静嘉堂文庫博物館学芸員研究目的:金銀など光沢をもつ金属質の素材は,洋の東西を問わず絵画のなかで,他の顔料や水墨などとともに用いられることが多く,とくに日本絵画は,その使用が著しいと来指摘されてきた。それは,書の料紙装飾や蒔絵など関連分野において,箔・泥・裁金など種々の加工技術が発達し,その影縛が及んだからとも考えられるが,また一方では日本絵画そのものが,屏風などのような調度品に描かれることが多く,それ自体意匠になりうる要素を大いにもっていたからとも考えられる。そしてこれらの加飾技術のうち,とくに金銀泥絵は,近世初期の美術家,俵屋宗達の出現をもって水墨画にも匹敵する優れた作品が生み出され,またここでは光悦の書と共鳴し合い,ひとつの生命体が形成されているのである。宗達によってひとつの頂点をみた金銀泥絵は,唐朝美術の影閻下のもと,奈良・平安時代以来の伝統をもち,その底流にはたえず“属属の生命”のようなものが流れ,単なる下絵=デコレーションの次元にとどまるものではなかった。金銀泥絵の制作をとおして,金銀という素材のつくり出す自然の作為への鋭い感性がみがかれ,また絵画・工芸意匠といったジャンル分けを越えた高次の生命力あふれる飾りの世界が実現してきたのである。この「素材」と「ジャンル」の問題は,日本人の自然観や絵画観を世界の美術と比較し,位置づけていくうえで,きわめて重要な視点を提供してゆくものであろう。今回の金銀泥絵の探求は,そうした“世界のなかの日本美術"というテーマを自分なりに掘り下げてゆく作業のほんの一序論にすぎない。だが,宗達出現の基盤を従来以上の広汎な視野からすくい上げ,また“装飾的"とされる日本絵画の一面をより具体的なレベルでとらえ,積極的に評価してゆくステップとなりうると思われる。16.阿弥陀来迎図の成立と展開に関する調査・研究一迎講儀式との関連を通して一研究者:京都大学大学院文学研究科美学美術史学専攻博士課程加須屋誠賓玉敏子(玉晶敏子)-33 -
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