る資料を網羅的に収集し,その成果を『日本彫刻史基礎資料集成』平安時代造像銘記編全8巻(丸尾新三部他編,中央公論美術出版刊,昭和41■46年)として刊行したが,これに続いて,鎌倉時代造像銘記資料の収集を完成させ,鎌倉時代彫刻史研究の真の基礎をつくりたいと考える。この時代の造像銘記を有する作品は既に500件以上が知られており,それらの多くは個々には紹介されているものの,基礎資料として役立てるにはなお不十分な報告が多く,それらの体系的な,かつ詳細にわたる資料収集が必要である。本研究は故丸尾彰三郎によって試みられたこの期造像銘記資料の収集を引き継ぎ,完成させようとするもので,鎌倉時代彫刻の複雑多岐な史的展開は,この資料収集の完成とその公刊によって解明への道が開けるであろう。18.三乃至五世紀の西北インド及び中央アジア・中国の仏教美術における大乗的要素に関する,主として図像的研究研究者:根津美術館学芸員安田治樹研究目的:大乗仏教美術の発生に関しては,これまでの研究からもクシャーン朝治下のガンダーラ美術にその淵源を求めるのが大方であり,これには殆んど異論はない。ただ大乗の思想内容が実際どのようなかたちをとって造形美術に表われるかは,個々の研究者の解釈によって相違し,必ずしも意見の一致を見ぬのが現状である。当美術における大乗の影特については,すでにいくつかの観音の例証によって阿弥陀仏等の存在の可能性は確かめられるが,最初期の大乗仏教美術がそうした阿弥陀を代表とする浄土思想によってのみ解釈し得るわけではなく,例えば浄土思想の基盤をなす諸仏現在の思想なども大乗の重要な徴証の一つとして当然考慮されねばならない。以上の観点から,この研究には一応阿弥陀の浄土を念頭におきつつも,それ以外の諸仏浄土表現の可能性と,恐らくはこれに先行したであろう諸仏現在の表現,いわゆる千仏図の図像の成立過程を,ガンダーラを含め広く中央アジア,中国の遺品中に求め,もって大乗仏教美術の萌芽から初期の展開にいたる諸相解明の手掛りとする。19.ハンス。アルプと20世紀美術研究者:愛知県新文化会館建設事務局学芸員村上博哉-35-
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