ツォやツッカロの美術理念を学んだ画家である。彼は,デカルトと共通する合理主義的な精神風土に根ざした古典主義的な荘重様式(マニエラ・マニフィカ)を確立する。それはバロック最盛期のローマで芽生えた,極めてフランス的な造形理念の発露であった。したがってフランス・アカデミーと,そこで果したプッサンの役割を考察することは,イタリアと区別されるフランス近代美術の根源と特質を分析するうえで,きわめて重要なことであると考えられる。また生涯の前半にはイタリアの人文主義者を,後半にはフランスのブルジョワジーをパトロンとしたプッサンは,美術家とパトロンの関係,アカデミーと美術家の社会的地位の問題を考察するうえでも,不可欠の研究対象であると思われる。またプッサン研究は,1980年以降,帰属問題の再検討,多様な角度からの図像学的分析など,重要な研究成果が相次いで発表されている。それらの新たな研究成果を我国に紹介することもまた有意義であると考えられる。21.ルイ14世時代のフランスで制作された「四季図」について研究者:東京大学大学院人文科学研究科博士過程(美術史学)大野芳材研究目的:「四季図」は,ルイ14世の治政下のフランスでかなりの数が制作されたことが現存する作品や,版画,文書による記録などを通して知られる。それらはル・ブランなど古典主義の形成に重要な役割を演じた画家たちが多く手がけている点,および「四季」という図像自体により興味深い研究対象であると考えられるが,今日まで体系的に研究されたことはない。研究主題を実行するため,まず第一に,当時の四季を表現した作品の目録を制作し,それらを可能な限り時間の軸に沿って整理することが必要であろう。同様に,イタリア,ネーデルランドの画家たちの描いた四季図の目録の作成も重要である。こうして作品を整理したうえで,それぞれを比較検討することで,図像の継承,革新といった面を明らかにすることが今回の調査の大きな目的である。フランスの歴史画家はイタリアの芸術を吸収することに精力的であったが,ひとつの図像についての考察は,彼らが何を摂取し.新しく何を生み出したかを,具体的に示してくれるはずである。他方,イタリアの画家たちに比べ見すごされがちな北の画家たちとフランス美術の-37 -
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