27.近代日本画の下絵の研究(宇田荻部を手がかりに)の洋画家たちが如何にミレーを始めとするバルビゾン派の絵画を受容していったかを,客観的資料に基づいて,明確にすることは,日本近代洋画史研究上,きわめて重要であり,研究価値の高いテーマであると考えられる。そのためにはこのことに関する礎資料の発掘調査・収集・分析が総合的・体系的に行われる必要がある。そうして得られた基礎資料の収集成果は,作家編年の基礎をなすものであり,日本近代洋画家並びにミレー及びバルビゾン派双方の研究に同時に寄与することができるなど,非常に利用価値の高いものとなり得る。さらに国内に所蔵されるミレー及びバルビゾン派作品の総目録の作成も実現できる。山梨県立美術館は開館以来これまで,ミレーとバルビゾン派の文献等資料の収集・調査を進め,特別展観やそれに伴う図録などの形で,その成果の一端を発表してきている。ことに申請者は同館が,国内所蔵作品のみにより構成した同館開館1周年記念展「ミレーとバルビゾン派展」の際の調査結果を始め,以後10年に及んでデータや調査資料を蓄積しており,それをそのまま本研究の予備調査として活用することができる。以上のことから,日本におけるミレー及びバルビゾン派の受容に関する基礎資料を集約し,体系化するのに申請者は最も有利な立場にあり,またそれが可能である。そして本研究はミレーとバルビゾン派研究並びに日本近代洋画史研究のそれぞれに資すること大であると考える。研究者:三重県立美術館学芸課長中谷伸生研究目的:日本中世の「岡屋兼経像」(京都高山寺)などのいわゆる紙形(下絵)や,西洋絵画のカルトンあるいはエスキース,さらにその他のデッサン類など,東洋と西洋の下絵類には,さまざまな共通点と相違点がある。また日本の下絵にも,日本独自の特質が見てとれる。今回の研究では,これらの下絵をめぐる問題を研究したい。その手がかりに,主として大正期日本画の下絵を調査する。推測するところ,大正期の日本画家たちは,西洋の芸術観の強い影響によって,本絵よりも下絵の段階で,より激しく創作意欲をかきたてた場合がしばしばあったと思われる。その一例に,三重県出身の京都画壇の日本画家,宇田荻那の下絵類を調査研究する。大正期の荻郁は,-41-
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