鹿島美術研究 年報第6号
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2.共時的視点30.イタリアの初期ルネサンス美術における線遠近法についての研究の見通しをたてようとすることにある。当該課題の研究の取組み方には多様な方向がありうる。中世絵画との非連続性と連続性に着目する二方向があり,アプローチについても,様式論,主題・意味論,社会史的方法などがあり,また,通時的,共時的の双方の時間軸の設定が可能である。以上の研究方向のマトリックスのなかから,本研究では,中世との連続性に注目し,主題・意味論的方法と共時的視点を重視・選択する。1.中世との連続性および主題・意味論本研究は,中世的伝統からの脱却という視点から中世と近世との断層面を求めるよりも,むしろ中世的伝統の継承に論点をしぼり,継承形態の差異を詳細に観察することから中世と近世との比較を試みる。具体的には,中・近世をつうじて愛好され,かつ,作例が豊富である点から,源氏・伊勢などの典型的な古典主題を扱う作例を比較材料とすることか適切であり,これを主対象とする。また,同一主題による作品群のグルーピングをおこなうため,主題表現とモチーフ描写とが比較対象となる。当該時期の絵画史の展開過程は均質ではなく,また直線的に把握されるものでもない。多様なヴァリエーションをできるかぎり正確に位置づけるためには共時的(同時代的)視点が必要であると考える。具体的には,対象作例と同時代の古典注釈書,梗概書などを通じてその時代の古典解釈の特色を求め,これを絵画作例の比較材料の基礎とする。また,こうした視点をとることによって,同一主題を扱う同時代の文芸・芸能との比較が可能となる。以上のように方法,対象,視点をしばりこみ,具体的かつ詳細な検討を試みたい。研究者:別府大学文学部助教授篠塚研究目的.. イタリアでルネサンス美術が形成されるにあたり,線遠近法(科学的遠近法,透視図法などとも称される)が,きわめて重要な役割を果たしたことはよく知られています。当時のデッサン(たとえばレオナルドの「三王礼拝」)に端的にあらわれているように,ルネサンス人にとっては「はじめに空間ぁりき」と言ってよいほどで,線遠近-43 _

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