鹿島美術研究 年報第6号
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33.ルーベンス作「戦争と平和」と「戦争の結果」17世紀の宮廷画家が主君の武勲や政治的手腕を讃える主題を扱ったことはごく普通34.水墨画における探幽様式の特色について研究者:京都大学文学部助手中村俊春研究目的.. フランドルの画家,ペーター・パウル・ルーベンスが,17世紀のヨーロッパにおいて各国の宮廷で寵愛された,国際的な声望を有する画家であったことは周知のとおりである。画家としての声望に併せて,優れた教養と傑出した語学力を有していたルーベンスは,南ネーデルランド大公夫妻にとって得難い人材として,1621年以降,1630年代に至るまで,30年戦争のさなか,列強の間で不安定な立場にあった自国の利益を守るために積極的に外交官として活動した。そのルーベンスが,平和を希求する自己の政治的立場を表明すべく描いた2枚の寓意画が存在する。ロンドン,ナショナルギャレリー蔵の「戦争と平和」とフィレンツェのピッティ宮所蔵の「戦争の結果」である。本研究は,これら2作品を造形的,および図像学的に詳細に分析することを通じて,ルーベンスがこれらの作品で意図した政治的メッセージを明らかにするとともに,併せて,少なくとも当時,今日ほどには芸術と政治は遊離していなかったという観点から,王政を中心とする17世紀の政治体制における,芸術家の政治的活動の可能性を探ろうとするものである。であるが,それに対して,平和を訴える芸術家の個人的な意識が顕著に表明された作品は,稀であるように思われる。そこで,ルーベンスという画家の特質を明らかにするためにも,類似の主題を取り上げた作品がどの程度存在するのか,調査されねばならない。17世紀の宮廷画家の政治的主題を扱った作品を比較検討することがルーベンスの2作品の意義を明らかにするためには是非必要なのであるが,この点に関しては,未だ充分に研究が行われていないというのが現状である。研究者:大阪大学大学院文学研究科芸術学専攻博士課程鬼原俊枝研究目的:狩野探幽の生きた時代は,徳川幕府による支配体制が確立してゆく時期であり,この時代背景と探幽の業績とは密接な関係にあったと思われる。流派のリーダーとして,狩野派の画風をかつてないほど一律的なものに統一した探幽の役割は従来から強調さ-46 -

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