鹿島美術研究 年報第6号
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宋代浄土教絵画の体系的認識は,上述の問題を考究するきわめて有効なアプローチと考えられ,本研究を通して鎌倉時代の浄土教絵画の特質がより明確になることが期待される。36.大正期の新興美術とヨーロッパの前衛美術研究者:筑波大学芸術学系講師五十殿利治研究目的:大正期の新興美術運動は最近の「1920年代日本」展など国内の展覧会のみならず,フランス(パリのポンピドゥーセンターの「前衛の日本」展)やドイツ(デュッセルドルフ美術館の「日本のダダ」展)においても展覧会が開催されて注目されつつある。しかし,こうした関心の高まりに比して基礎的な研究はむしろなおざりにされているようにさえ考えられる。本研究においてはとくにドイツにおける日本人作家の活動を主な考察の対象とする。公表された著作等を丹念に読むだけでも,その活動ぶりには目覚しいところがある。なかでも,村山知義は群を抜いている。彼が接触した芸術家たちはロシアからイタリアまでヨーロッパ全域にわたり,しかも村山はベルリンにおけるイタリア未来派の一員として活動するというように,コスモポリタン的な運動にも関わりをもっていた。大正期の新興美術運動を正しく位置づけるうえでこのような国際的な交流を調査研究することは,海外の諸動向からの影響というその「影響」の性質を把握するためにも不可欠なものであり,ドイツ,さらに上記の関連においてイタリアにおいて資料収集を行い,交流の事実関係を確認する作業から始める必要があると考えられる。このように典拠にまで遡ることによって,これまできわめて安直に論議されてきた「影響」を正当な視点から考察するためのひとつの根拠ができるので,今後の大正新興美術の研究においても当然神益するところがあると思われる。37.アクロポリス(アテネ)出土アッティカ式壺絵の研究研究者:大阪市立大学文学部教授研究目的:主にイタリアのエトルスクの墓地から発見されて来た見事な黒絵・赤絵式の陶器が,古代ギリシャ製であることが判明したのは,アクロポリスの発掘を契機としている。_ 48 -関隆志

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