4.会津における仏像彫刻の地域性について以上,室町時代後期から桃山時代における在銘の刺繍作品4例について概観した。4例のみから結論を引き出すことは不可能であり,無銘の作例をも含めてより広汎な考察を行なう必要があるのは当然であるが,現段階で推定できることをまとめると次のようになる。まず,(1)の15世紀半ばから(3)の16世紀半ばまで技法的に大きな変化はなく,意匠の上でも様式的変遷を云々できるほどの変化は認められない。ところが,17世紀初めの(4)においては(1)(2)(3)との連続性は見出されるものの相違点の方が際立ち,技法の上でも意匠の上でも1600年前後の刺繍は大きく変貌を遂げたことが予想される。有名武将の遺品などもあり比較的知られている観のあるこの時期の染織であるが,もっと大きな展開が進行していたのではないであろうか。従って,今後の研究課題は,第一に前述のように桃山時代とされてきた刺繍の制作年代を再度検討すること,第二に1600年前後に想定される刺繍の変貌について多方面の資料を緩用しその様相を探求すること,の2点に集約できる。2点ともに技法と意匠の両面にまたがるところから,刺繍の作品にとどまらず染織作品全体に拡大し得る重要な問題である。現在一般に「桃山的」とされる様式的特徴が実は桃山時代,つまり16世紀後期から17世紀初期に固有なものでは決してなく,造か100年も遡る15世紀半ば頃に誕生したものであるかもしれず,しかもその終焉が17世紀初め頃である可能性を,ここに報告した作例は提示してくれるのである。研究者:福島県立博物館学芸員若林研究報告:会津地方には,平安時代以降各時代にわたって仏像彫刻遺品が平均的に伝存している。そして鎌倉時代に入ると,遺例がより豊富になるとともに,技法構造や作風も変化に富んでくる。さらに紀年銘により造立年代を明確にすることができる作例が現われてくるのも,この時代からである。現在までのところ,13世紀後半〜14世紀初期にかけて5例を数えることができるが,いずれもこの地で造立され,独特な地方的作風をもった像ばかりである。それぞれの像は,造形表現においてけっして完成度が高いとはいえない。個性的で,造形上の特色のみを追求していくと,個別的,一面的な理解しか得られないように思われる。しかし技法構造には,ある程度の方向性が求めら-72 -繁
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